田村正勝コラム:日本の温暖化防止策は世界から批判されるほどに消極的---温暖化対策「炭素税」は「対トランプ」にも効果---

(一)日本は炭素税の導入を!

 京都議定書の温暖化対策には参加しなかったアメリカと中国が、次に見るとおり極めて積極的になって、いち早く「パリ協定」に参加した。けれども日本では政府および財界の姿勢が、「京都議定書」や「洞爺湖サミット」の頃より後退した感が否めない。日本はパリ協定の締結に遅れ、初回の締約国会合の正式メンバーに入れなかった。また多くの「石炭火力発電所」の新設計画を立て、その輸出さえも計画している。

 

 しかし、このような日本の消極的な姿勢が、世界の反発を買っている。後で触れるとおり、トランプの「環境軽視策」に対する「世界的な抗議」の激しさからしても、日本の政府も財界も反省すべきである。そして今や日本も「炭素税」を導入し、これが更に世界的に広がれば、極めて有効な温暖化対策となる。ちなみに、これで日本の政府も財界も世界の信用を回復できるし、トランプの「対日輸出策」の防御にもなり、加えて日本の「財政赤字」を減らす手段ともなろう。

 

 この「炭素税」は石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じて税金をかけて、化石燃料やそれを利用した製品の製造・使用の価格を引き上げる。これにより需要を抑制し、結果としてCO2排出量を抑えるという政策手段である。このような税制がフィンランド、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、イタリア、イギリスで導入されおり、日本でも環境庁が検討している。


 要するにCO2の排出者に、排出量に応じた税金を払わせる税制であるから、排出社(者)は税を払うか、排出量を減らし節税するか、あるいは排出を止めて免税となるか自己決定する。それゆえ炭素税の導入によって、一方で「省エネ」が促進され、他方で「再生エネルギーによる電力」の使用も増えていくから、再エネが普及する。

 

 さらに炭素税は貿易関税にも応用できる。日本が炭素税を導入すれば、炭素税を導入していない、或いは日本より低い炭素税の国からの輸入品に関しては、日本の炭素税に相当する輸入関税をかけることができよう。それは自由貿易に反すると反対されても、「温暖化防止」のいっそう根本的なより広い観点から、正当な関税だと主張できる。

 

 仮にトランプ政権が「日米FTA」により、アメリカからのいっそうの輸入を強要してきても、これで防ぐことができるか、もしくはアメリカも同等の炭素税を導入するであろう。

 

 こうして炭素税が世界的に広がれば、「パリ協定」の実現に大いに貢献しよう。この協定の「新しい地球温暖化対策の国際ルール」は、産業革命以前からの気温上昇を2度未満に抑えるために、「温室効果ガス」の排出量を今世紀末までにゼロにすべく、各国が国内対策を取ることを義務付けている。

 

 ちなみにEUは「京都議定書」の「90年比6%温室効果ガス削減」をクリアし、30年までに「温室効果ガス」を90年比で40%削減すると言う。これに対して現在の日本は「温室効果ガス」を90年比14%も増やしてしまった。そして30年度までに13年度比26%の削減を目指すという。これではEUと比べて、あまりにも消極的だ。EUと同様なレベルの削減とするには、30年度までに13年度比54%の削減を目標としなければならないはずである。

 

 またEUは30年までに「電源」に占める「再生エネルギー」の割合を45%にすると言う。これに対して日本の「再生エネルギー」の「電源」に占める割合は7.3%にすぎず、水力を含めても14.9%である。

 

(二)トランプ温暖化軽視策は実現不可能!

 トランプ政権発足の100日の節目の4月29日に、ワシントンで「トランプ温暖化軽視策」に抗議する20万人規模のデモ「地球温暖化対策を重視すべし」が行われたが、同様なデモが世界中では370か所で遂行された。トランプ政策は温暖化対策の「パリ協定」から離脱を表明し、「エネルギー自立と経済成長」に関する大統領令に署名したが、これはオバマ前政権の気候変動政策を大きく転換し、エネルギー開発関連の規制緩和を進める内容となっている。

 

 この環境に関する方針として、米国民に「きれいな水ときれいな大気」を提供するとしても、そのための規制が、過度な企業負担となっている場合は、これを撤廃すると言う。つまり環境規制には、そのためのコストを上回る便益が必要だとの原理で、既存の「規制・指令・ガイドライン」などを見直すという。

 

 そしてトランプ大統領の「予算教書」は、これに呼応して2018会計年度の「環境規制局(環境保護庁EPA)」の予算を、前年比31.4%減の57億ドルとし、その職員を3200人も削減する提案となっている。このとおり実施されると、EPAが新たな規制を検討することが難しくなる。しかし「オバマケア(医療保険制度改革)」の代替法案の撤回にみられるように、トランプ政権と与党共和党の連携が十分でないことや、国民の多くと民主党の反対も予想されることから、これらの「トランプ環境政策」がどれだけ実現できるかは不透明な状況だ。


 さらに、連邦最高裁が07年に「温室効果ガス(GHG)」が「大気浄化法」に規定される大気汚染物質に含まれるとの判決を下し、それを受けて09年にEPAが“GHG排出により国民の健康と福祉が脅かされる”との「危険性の認定」を行っている。この判例に基づき、大統領令に対して環境保護団体が訴訟を起こすことも予想されている。

 

 また「カリフォルニア州大気資源局(CARB)」は、EUと同様に「GHG排出量を30年に90年比で40%削減する計画」を提案している。そして「CO2排出権取引」「製油所からのGHG排出量の20%削減」「低炭素燃料基準(LCFS)」などで「クリーンエネルギー」を促進させる。

 

 同時にCARBは、クリーンな車両とトラックおよび船舶を普及させ、農業残渣などからのメタン排出を削減させると言う。また「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEVゼロ排気ガス車両)」などの促進もはかり、本年3月に州の「自動車燃費基準強化」を最終決定した。このように州においては、トランプ政権の規制緩和や気候変動政策と相いれない動きが進む。

 

(三)中国は「ユーロ6」基準より厳しい排ガス規制の実施へ

 アメリカと並んで「地球温室効果ガス」を大量に排出する中国はどうか。李克強首相が「全国人民代表大会の政府活動報告」において、「青い空を守る戦いに断固として勝利する」と述べるなど、政府はその対策に強い姿勢を示している。

 

 中国ではとくに「微小粒子状物質(PM2.5)」による大気汚染が問題視され、「自動車の排ガス」や「燃費」の規制を強化している。排ガス規制については17年1月から、「欧州の排ガス基準」をベースにした排ガス規制「国5」の範囲を、全国に拡大した。

 

 さらに、今後新たに導入を予定する「国6」規制では、規制値を「6a」と「6b」の2段階に分け、中国で販売・登録される全ての小型車両は、それぞれ20年と23年までに基準を満たすよう義務付けた。この「国6」の規制は「国5」よりも排出規制値を40~50%厳しくし、ガソリン車とディーゼル車の規制値を統一した。また車両の公道における「排ガス測定試験」を義務付けている。

 

 このような「国6a」の段階は、欧州連合(EU)の最新基準「ユーロ6」よりやや厳しく、米国の最新基準「ティア(Tier)3」よりは緩いレベルだが、「国6b」は米ティア3が定める20年の平均値にほぼ匹敵するレベルだという。ちなみに「ティア」はデータセンターの「品質評価・格付け基準」で、1から4まで4段階の評価レベルがあり、数値が大きいものほど品質が高いことを示す。評価の基準としては「供給される電力経路」「自家発電機の運転時間」「電源容量やUPS(無停電電源装置)の有無」「空調設備の状況」などがある。

 

 さらに中国では乗用車の燃費向上についても、「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展規画(12~20年)」の中で、乗用車の平均燃料消費について、15年までに100キロ走行当たり6.9リットル(燃費14.5キロ)、20年までに5.0リットル(同20.0キロ)とする目標が掲げられた。

 

 そして16年1月1日から、「乗用車燃料消耗量限界値」と「乗用車燃料消耗量評価方法及指標」が実施され、乗用車の平均燃料消費について、16年は100キロ走行当たり6.7リットル、17年6.4リットル、18年6.0リットル、19年5.5リットル、20年以降は5.0リットルを上回ってはならないとしている。

(アメリカおよび中国に関してはジェトロ『通商弘報』17年4月の複数号を参照)