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 日本経済劣化の推移と賃上げの格差

賃金および家計消費の“持続的な実質低下”

表1は10年間ごとの経済指標の伸びを示している。GDPは9808年度および200010年度のそれぞれの10年間下がり続けたが、201120年の10年間にやや伸びた。しかしこの間に消費者物価もほぼ同じ程度の伸びゆえ、この10年間も実質GDPは伸びていない。

 

(表1)GDP・家計消費 ・賃金・消費者物価・輸出額の10年ごとの倍率(単位:倍)

 

GDP

家計消費

賃金

消費者物価

輸出額

197686年度

198797年度

199808

200010年度

201120年度

2.00

1.40

0.98

0.94

1.08

1.56

1.16

0.90

0.94

0.97

1.60

1.20

0.92

0.91

1.00

1.42

1.16

0.98

0.97

1.06

3.00

1.64

1.44

1.30

1.09

(出所)財務省『主要経済指標』から作成

 

他方で賃金もGDPとほぼ同じ軌跡であるが、落ち込み度合いはGDPの低下より大きい。消費者物価の推移を考慮した「実質賃金」は、マイナスの度合いがさらに大きいからだ。それゆえ家計消費の低下度合いが最も大きく、最近の10年間も低下し続けている。しかもこの10年間は消費者物価上昇率が大きいゆえ、「実質家計消費」の落ち込みは過去最高となった。

 

 機械を増やしても生産性伸びず

輸出はいずれの10年間も伸びたが、伸び率は次第に縮小し、201120年度はほぼ横這いであった。このような日本経済の長期的なマクロの趨勢に対して、産業とりわけ企業の経営状況はどうか。表2における「労働装備率」は「従業員1人当たりの機械の金額」、「労働生産性」は「従業員1人当たりが稼いだ金額」、「人件費」は「1人当たりの給与と福利厚生費の合計」の「全産業」を対象とした指数(1985年度=100)」である。

 

(表2)労働装備率・労働生産性・人件費の指数(全産業、1985年度=100

 年度

1990  1995  2000  2002  2005  2010  2015  2020  2022

労働装備率

労働生産性

人件費

141   192     188  200    172    188    193    195    197

129  132     126  128    120    114    114    117    118

132  161     161  162    160    158    158    161    171

(出所)財務省『財政金融統計月報』の「法人企業統計年報特集」の各号から作成

 

  労働装備率は2002年度が最高で、1985年度の2倍(指数200)となった。しかしその割には労働生産性が上昇せず、85年度比30%弱の伸びに過ぎない(指数128)。それゆえ05年度には装備率を02年度より15%ほど落とした(指数172)。それに伴って労働生産性も低下した。これを修正すべく、10年度も15年度も労働装備率を上昇させたが、労働生産性は下がり続けて、生産性が最高であった1995年度より15%ほども低下した(指数114)。

 

 この生産性が再び上昇するのは、装備率を95年度ほどの水準に上げた20年度(指数195)からであるが、それでも生産性は95年度より10%ほども低い(指数117)。何故か。第1に「成熟飽和経済」では基本的に「多品種少量生産」であるから、もはや「大量生産による機械効率」はあり得ない。第2に後述の「大企業の買いたたき」による「中小企業の生産性の低さ」である。99.7%が中小企業であるゆえ、これが生産性全体の低下を引き起こしている。

 

このように生産性の低空飛行ゆえ、「人件費」も85年度より60%ほど高いが、横這いを続けている。しかも生産性の落ち込みが大きかった1015年度はさらに低下し、指数は160を切った。これには正社員を非正社員に切り替えた「リストラ」の影響もあろう。

 

 しかし20年度と22年度は「労働装備率」を上げ「生産性」も幾分か上昇させ、人件費も上昇させている。これは特に「人手不足」が影響しており、「給与および福利厚生費」を上昇させたからであろう。ただし、この人件費アップの数字は、大手企業によるところが大きく、中小企業の人件費は、必ずしも上昇していない。それは次に見る最近の賃上げ格差からも予測できる。

 

 拡大する賃上げ率の格差

労働組合「連合」の5450組合集計では、24年春闘の「基本給の賃上げ率」は、従業員300人以上の1468組織の平均が5.19%であった。これに対して300人以下の中小企業3816組織では4.57%であった。またパートや契約社員などの「非正規社員」は、時給ベースで5.74%と高くなった。

 

 これらは1991年以来33年ぶりの高水準な賃上げであり、非正社員の賃上げはとくに高水準であるが、これも人手不足を反映している。しかし連合の労働組合組織は、大企業が多く、また組織率は16.3%(23年)である。したがって、この連合集計には、大多数の中小企業が含まれていない。

 

 そこで「従業員30人未満企業」を対象とする厚労省の「毎月勤労統計」を見ると、一般労働者の賃上げ率が2.1%、パートの時給が2.8%で、全体の賃上げ率は2.3%と低い。それでも、やはり33年ぶりの高率である。そしてこれらの時間当たり賃金平均は1488円となった。しかしこれらの賃上げ率は、連合の先の5.19%および4.57%に遠く及ばない。

 

ちなみに1991年の春闘賃上げ率は5.66%、所定内給与(基本給)4.5%であったが、90年の「人件費」が指数132と低かったゆえ、景気下降にも拘らず91年は高い賃上げ率になった。労働組合の組織率が25%以上と現在より10%以上高かったことも、これを可能にしたと言えよう。

 

これに対して23年の賃上げ率は、大手を含む全体平均が3.58%に過ぎない。これは中小企業の賃上げ率の低さを反映している。先述のとおり24年でも「中小企業の賃上げ率」は2%台と低い。一方でこのような「企業規模による賃上げ率格差」は、現在の労働組合の組織率が低いことにもよる。

 

(表3)資本階層別「売上高経常利益率」の推移(年度間の平均 %、全産業)

資本金

1000万円  1000万円~1億円未  1億円~10億円未満  10億円以上  

200811年度

201215年度

201619年度

202022年度

  0.5        2.0          2.8       4.0

  1.9        2.9          3.7       7.0

  2.5        3.5          4.3       7.9

  2.4        3.3          4.6       8.6

  (出所)財務省『法人企業年俸特集』の各号から作成

 

しかし賃上げ格差の最大要因は、大企業と中小企業との「利益率の差」である。

表3のとおり「売上高経常利益率」は、資本金10億円以上の大企業は2022年度は8.6%、2122年度は9%以上であり、欧米並みとなった。これに対して資本金1000万円以下の企業は2.4%、1000万~1億円未満企業でも3.3%に過ぎない。

 

企業の利益率は「業種業態」によって異なるが、大企業も中小企業も年を追うに従って利益率を上昇させてきた。しかしその上昇度合いは、大企業のほうが圧倒的に大きい。

これらの最大要因は、大企業による中小企業に対する「買いたたき」である。

 

 いかにして最低賃金を引き上げるか!

さらに「円安」がこの傾向をいっそう強めている。円安により「輸入原材料価格」が201022年間にほぼ2倍以上となったが、中小企業が大企業に納品する価格の「企業物価」は18%ほどの上昇に過ぎない。この上昇の格差が中小企業の利益を抑え込み、賃上げを難しくしている。ちなみに「大手製造業」はアセンブリー、つまり中小企業から仕入れた部品の「組み立て産業」ゆえ、輸入原材料価格上昇の影響余り受けない。

 

 こうした状況に鑑みて厚労省の「中央最低賃金審議会」は、24年の「最低賃金(時給)」を、23年の1004円から50円引き上げて1054円にする方針を決定した。ちなみに22年のEUの同指標は、「賃金分布の中央値の60%」を国際指標とし、イギリスは中央値の3分の2まで最低賃金を引き上げる方針を出している。

 

 実際に韓国、フランス、イギリスの「最低賃金」は、すでに同中央値の6割前後であるが、日本は45%に過ぎない。それゆえ24年の「政府の最賃指標」が「過去最高の引き上げ幅」を出したのも当然だ。さらに27県が、これを超える引き上げ目安を出している。しかしこの引き上げ額を実現するには、まず「大企業による買いたたき」を止めることが不可欠だ。現在の最低賃金は、最下位の岩手県の943円をはじめ殆どの県が900円台であり、6都道府県だけが1000円を超えている状態であった。

 

ところで経団連の「24年大手企業の夏のボーナス」は、従業員500人以上の20業種156社の平均妥結額が前年比4.23%増の94.1万円で、1981年以降で2番目となった。化学、電気、貨物運送を除く16業種で前年より増え、とくに円安の恩恵が大きい「自動車」は17.83%の最高の伸びである。

 

円安が「ドル建て輸出の円換算額」および「海外子会社の利益の円換算額」を上昇させたからである。ちなみに例えば23年度の「全産業の総経常利益」の60%を、資本金10億円以上の大企業が占めている。この大企業数は、全企業数の0.3%に過ぎないのだ。

 

以上より明らかなとおり、日本経済を正常な軌道に戻すには、「買いたたき」を法律によって修正させ、同時に中小企業が結束して「大企業に対する拮抗力」をつけることだ。それには従来の「近代的なパラダイム」からの脱却が不可欠。「過当競争・効率主義」自由か平等かなどの「二項対立思考」「科学技術重視・自然の軽視」など、従来のイデオロギーや「ものの見方・考え方」の修正が不可欠である。

 

 

 

科学技術で人類は破滅へと走り続けるのか!

 科学技術の発展と人格の軽視

 技術は「自然観」と切り離せないが、15世紀ごろまでは、洋の東西を問わず「有機体論的かつ生態学的な自然観」であった。それゆえ人間も包括的な自然の一部であり、これに反する生活や技術は否定された。しかし16世紀以降は次第に「機械論的自然観」が台頭し、自然は「人間によって解釈される対象」と考えられてくる。ここから「科学技術」が展開されてきた。

 

 そこで例えばベーコンは「知は力なり」と主張したが、この思考から展開された技術は、従来の「自然から学び、これを模倣する技術」ではない。科学の解釈に従って「造れるものは何でも造る」という科学技術観へと展開した。

 

 しかしこのような物理学的な自然の解釈から生まれる技術が、社会を変容させ、人間が社会の単なる「歯車」といった状況に貶められてきた。こうして今日の人間の多くが、ヤスパースが見通していた如く、いつでも「他人」やコンピュータをはじめとする「機械」によって代替される「代替可能な人間」となり、「人格」を持たない動物と同様に扱われがちである。

 

 IT・AIの利用による文明の危機

IT及びAIの普及が目覚ましく、いまやこの技術や知識なしに生活も仕事も儘ならないほどだ。だがこれらの技術使用に関する問題も深刻。2000年のILO報告「職場のメンタルヘルス(IT使用に関するレポート)」では、IT使用以降「うつ病」が増加し、アメリカでは生産年齢人口10人中1人が、イギリスは同3人が、EU諸国も同様に多くが「うつ病」を患っている。

 

それゆえ当時「うつ病対策費」がアメリカは300400億ドル、EUはGDPの3~4%にも達したが、このEUの額を今日の日本に移せば20兆円ほどに相当する。しかし日本はこのような「対策」を導入しなかったから、「ITうつ病」も急増したと思われる。なぜなら日本の自殺死亡者数は1990年代以降急増し、98年は3万2863人、ピークの03年は3万4427人と11年までの14年間は毎年3万人台の自殺者数が続いた。

 

もっともその後は減少したが、それでも23年でも2万1837人。ちなみに日本のこの警察庁統計の自殺死亡者数は、自殺から24時間以内の死亡数。全自殺死亡者数は、98年からの11年間に毎年5万人超で合計70万人超だ。戦争もテロもない日本で、信じられない自殺者数だ。 

                              

さてAIについても問題が指摘される。まず「経済協力開発機構(OECD)」の推定では、今後AIで代替される労働人口が先進諸国平均で労働人口の1割、日本は15%の1000万人。したがって先進諸国の労働者の6人に1人の5.4億人が貧困化の可能性があると言う。

 

他方でアメリカの非営利団体「AI安全対策センター(CAIS)」は、「生成AIによる人類絶滅リスク」を警告し、パンデミックや核戦争と同様に、世界の最優先課題として対処すべきと主張している。そしてこの警告に、次のような学者や専門家350人が署名している。オープンAIのサム・アルトマンCEO、トロント大学名誉教授ジェフリー・ヒントン、AIグーグル・ディープマインドCEOデミス・ハサビス、テスラのイーロン・マスクCEOなど。

 

生成AIが誤情報、文章や絵画・音楽および画像など文化一般に「特定の価値」を反映させ「社会全体」をコントロールし、倫理観や人間の在り方など「文明」をコントロールし、人類絶滅のリスクに繋がると言う。したがってEUは「生成AI 利用の包括的な規制法案」を導入した。またG7は巨大AI企業の寡占を阻止すべく「国際的行動規範」を合意した。

 

科学技術の挑発から逃れうるか

ところで生成AIに限らず科学技術およびその産業化は「大気・水質・土壌汚染」「地域共同体の弱体化」「精神と文化の劣化」など、産業技術のプラスを凌駕するほどのマイナスをもたらしている。

                               

たとえば世界保健機構(WHO)によると、22年の「温室効果ガス濃度」は、産業革命前の1.5倍と過去最高で、23年は125000年以来の史上最高に暑い夏であったと言う。どのような研究からの結論か分からないが、ちなみに本年はさらに高温。また大気汚染が原因で年間670万人が死亡している(WHO)。

 

さてテクノロジーの語源はギリシャ語の「テクネー」で、これは「露顕された真理や美」を意味し、技術と芸術の区別がなかった。そこでハイデガーは「潜伏している真理」が、人間を挑発し「用立て」のために科学技術を要請すると言う。そして科学はこの「挑発の激しさ」に負け、人間に「真理の本質」を見失わせ、人間を破滅させると主張した。

 

要するに人間は、技術の論理が引いた直線上をどこまでも走らされ自滅するということだ。確かに化学合成や遺伝子操作により、ナイロン、ビニロン、多くの新素材やクローン生物をはじめ自然界になかったものを合成する。また「動物臓器の人間への移植」さらには「クローン人間の可能性」など、倫理的問題も引き起こしている。問題は核兵器ばかりではない。

 

こうして人間も自然生態系の一部であり、その中で生活するほかないことを忘却しがちで、人間が支配者であり、自然を支配し変容できるという思考が広まった。しかしその結果「温暖化」はじめ、先の近代文明の3つのマイナスが次第に拡大している。科学技術の推進は、これらの視点を熟慮すべきだ。

 

自然性と人間性への道

しかし、このことは近代科学を完全に否定することではない。自然に対するアプローチは「解釈される自然」(カント)である他はない。また全く人為の加わらない自然は恐ろしく、ヨーロッパ中世では「森」は、天変地異と同じく恐ろしいものの代表物であった。

 

自然法則を利用して技術を発明するのも、人間の自然性であろう。周知の「天工開物」のとおり、自然の法則の「天」と人間の工夫の「工」の双方が相侔って「物」ができるが、これも自然のことだ。これは自然性に適った「生き生きとした自然」を発展させる工夫である。そのためには「自然解釈と技術」が、本来の自然性を見失っていないか、「人間中心主義的な見地」に立っていないか、常に反省をしなければならない。

 

それは物理学や化学の妥当する世界をもって、これが自然だと理解するごとき世界観を反省することだ。物理や化学の法則は、一定のパラダイムを前提にして、全ての世界を物質とエネルギーとの関係で捉え、それを定式化したもの。したがって、この法則は、自然が正しく働いているか否かに関係することなく、これを全ての事物に当て嵌め妥当させてしまうからである。

 

この反省を欠くと、老朽化すると見苦しくなる建物や、DDTや原爆など害悪を拡散する物質を作る。自然性に適う建築物やその他の創作物は、年月を経るとともに、それなりに美しく、また性能が増すといえる。例えば「薬師寺」は千年の檜の柱で建てられたが、建立後30年以上を経て木組みが固まり、化粧柱が同時に構造柱となり、大地震にも耐えて千年間もびくともしなかった。

 

要するに自然と人間が接近してゆく道を工夫することだ。自然性や人間性を課題とする「自然性への道」や「人間性への道」を工夫することである。これは「自然による人間」と「人間による自然」との双方を止揚した第三の立場であり、どちらか一方の立場だけに立つことは誤りである。

 

 

 

 日本経済の最近半世紀の総括 

(一)「所得格差と金融経済」による超長期不況                              円安で「大手の最高益」と「中小企業の倒産」

アメリカ経済は1960年代初めに「生産力成熟・消費飽和」の「成熟飽和経済」に到達した。生産力の拡張に消費が追いつかない。西ドイツも60年代中頃、日本は70年代後半には「成熟飽和」へ。この状況では、カネを売って稼ぐ「金融経済」に傾く。先ずはアメリカが、この「金融経済」と「軍需産業」に活路を見出した。

 

 他方ドイツは「労働時間の短縮」に、日本は「海外輸出」に活路を。それゆえ日本経済は、世界的な非難を受ける「過剰輸出」に陥り、「プラザ合意」によって、86年には1ドル235円から150円への急激な円高となり、従来どおりの輸出が難しくなった。

 

そこで製造業は、海外工場進出と海外投資を増大させた。今や日本の自動車の70%、家電の65%ほどが海外生産。それゆえ日銀の「円安誘導による輸出拡大策」は無効なばかりか、輸入原材料と輸入食品の価格を高騰させ、中小企業と家計を困窮させている。この趨勢の中で日本経済の水準が暴落し、1980年代後半に「世界第1位」と言われた経済の面影もない。製造業の「時間当たり購買力平価賃金」は、今やドイツの半分、フランスの60%ほどだ。

 

ちなみに86年末の「購買力平価のドル換算賃金」は、日本が10.71ドルで断トツ。アメリカ9.73ドル、西ドイツ9.52ドル、イギリス5.32ドル。また日本の「1人当たり国民所得」も1.96万ドルで1位。アメリカ1.78万ドル、西ドイツ1.77万ドル、イギリス9600ドルと日本の半分。

 

こうした日本経済の激落にも拘らず、大手企業の23年度の純利益が3年連続の過去最高で、前年度比13%増の43.5兆円。コロナ後の経済再開や値上げ、とくに「円安」が収益を押し上げた。全企業の経常利益も、すでに10年度比2倍超だが、それは専ら大手企業の高利益ゆえだ。

 

大手の「輸出円換算額」と「海外利益の円換算額」を、「円安」が釣り上げている。しかし中小企業は逆に「円安による輸入原材料価格高騰」だが、大手製造業やスーパーによる「買い叩き」で、これを「納品価格」に転嫁できない。また「実質賃金低下」によって、小売店の値上げが難しい。

 

それゆえ「中小企業の倒産」の激増だ。1986年に528万社あった中小企業数が、2021年には358万社へと170万社以上も減少。現在は「小規模企業」が305万社、「中規模企業」が53万社。本年5月の倒産も、11年ぶりに1000社を超えた。

 

国内空洞化と国際収支の激変

アメリカは日本に「金融自由化」も要求し、日本も次々に「金融商品」を産み出す。この金融商品売買は、金利の行方で儲けが大きく左右される。そこで金融商品の「先物取引」や「マネーゲーム」も横行する。

 

 その趨勢が日本の「国際収支」を大きく変えた。近年は「円安」による「輸入物価の高騰」と「製造業の海外進出」ゆえ、貿易勘定は基本的に赤字続き。逆に「海外預金の利子・海外投資の配当・海外子会社からの受け取り」など「第1次所得収支」が膨張している。

 

 たとえば21年度と22年度の「貿易サービス収支赤字」が、6兆4千億円と23兆2千億円。これに対して「第1次所得収支黒字」が、29兆円と35兆6千億円(IMF統計)。しかしこの膨大な第1次所得の多くは海外に預金され、あるいは海外の再投資や金融取引に向けられる。

 

 ちなみに「対アメリカ投資額」は、日本が19年にカナダとイギリスを抜き、世界第1位。それゆえアメリカの10州以上の知事が、日本企業を訪問して投資を要請している。このような金融経済では、国内は空洞化だ。他方で預貯金、投資信託など日本の個人の「金融資産総額」は2115兆円(23年6月)で、それらの海外預金口座は40万件以上だ。

 

この金融経済が「所得格差」も拡大させた。日本の所得格差は、トップ1%に全国民所得の45%が集中している。アメリカは同48%、イギリスが同44%と、「新自由主義導入国」の所得格差が群を抜いている。これは英米流の「金融経済」によるところも大きい。同時にこれが、日本の「消費不況の持続」の大きな要因でもある。

 

(二)場当たり的な財政悪化策から脱却の秋(とき)

貧困世帯の縮減が不可欠  

日本と韓国は、世界中で最も少子化に悩んでいる国であり、韓国の「合計特殊出生率」は0.72、日本の23年は1.20で8年間連続の減少。それゆえ韓国の人口は今後50年間に3割減少し、日本も年間100万人ペースで減少し、2100年には6300万人へと半減する。

 

その背後には、結婚や子育てを望んでも叶わない貧困世帯の増加がある。日本の「貧困線」は、国民の平均年収の半分の127万円、月収10.5万円であるが、このような「貧困線」に届かない世帯の割合の「相対的貧困率」が、1980年代の8%から、現在は15.7%に跳ね上がっている。こで日本政府は、少子化対策として新たに「子供・子育て支援金3.6兆円」を導入するが、ドイツの例などから、この程度で少子化が緩和されるか疑問だ。

 

かつてドイツでは「子供養育手当」を厚くして、子供1人の世帯には毎月6000円、2人の世帯は1万8000円、4人の世帯7万3000円と累進的に支給したが、合計特殊出生率は1.35まで低下した。他方でフランスおよびスウェーデンは「子供を社会で育てる」という視点の政策を導入し、2015年には1.99程まで回復させた。 

ところで国際情勢と「円安」とによって、「電気・ガス料金」が大幅に上昇したが、政府は家計負担を和らげるため、電気およびガス代に対する補助金を段階的に引き上げた。その総額は3兆7490億円に膨張した。ただしこの補助金は本年5月で終了し、8月再開のドタバタ。

     

他方で政府は、国民の消費を喚起すべく6月から「定額減税」を導入し、国民1人当たり所得税3万円、住民税1万円で「合計減税額」は3.3兆円。加えて「半導体産業支援」に3.9兆円だが、これらの補助金、定額減税、半導体支援だけで10.9兆円に達する。                                                 

また「租税特別措置」によって、「研究開発減税」「賃上げ減税」などの「法人減税」および「所得減税」も導入されている。22年度のこの法人減税額は2.3兆円で、現行制度となった11年度以降で最高。その結果「租税特別措置」による減収額は、約8.7兆円で9年連続8兆円を上回った。

 

財政問題の根本的な取り組み                                                     このような財政にも拘わらずアメリカの要求もあり、27年度までの「防衛予算総額」を従来の1.5倍の43兆円とし、27年度はGDPの2%とする。23年度が6.8兆円、24年度7.9兆円、27年度8.9兆円と急増だ。

                      

他方で24年度末の国債残高は1100兆円となり、このうち「日銀保有」が5割以上の596兆円超(5月末現在)。したがって24年度の国債費は約28兆円、このうち利払い費が9.7兆円を占める。これまで金利が低かったので、利払い費が抑えられてきたが、それでも「国債費」は歳出予算の25%と大きく、「社会保障費」に次ぐ第2番目の項目である。

         

この政府の累積債務から、金利が1%上がっただけで、国債の利払い費が10年後に9兆円増える。また同じく当初予算の「国債費の割合」は2123年度が22%台、社会保障費が3233%台で、この双方の歳出額だけで全歳出の55%。さらに20年度、21年度、22年度の「歳出総額」に対する「国債発行額」の割合は、それぞれ73.6%、46.1%、44.9%と異常な水準であった。 

                           

政府はこの厳しい財政に対して、2530年度までの「6か年計画」を検討し、国と地方の「基礎的財政収支(プライマリーバランスPB)」について、25年度には黒字化の見通しだという。これまで見た財政実態から、これは疑問だ。 

                 

またPBには国債費が含まれないゆえ、たとえPB赤字から脱却できても、歳出総額の25%にも及ぶ国債費が残る。したがって財政改革には、「無利子100年国債」による「全国債の借り換え」などの抜本的な政策が不可欠である。この場合には100年後に約1000兆円超を返済すればよいゆえ、毎年の積み立てる「国債費」は10兆円ほどであり、今日の国債費との差額の1015兆円を、他の用途に回すことができる。ちなみにIMFは、日本政府の累積借金はGDPの2.5倍以上で「破産したギリシャ政府の借金より深刻」と警告している。

 

他方で「法人税」および「所得税」の制度も、抜本的に変えるべきだ。法人税は多くの「租税特別措置」により、大企業の「実効負担率」が、中小企業の「実効負担率」より極めて低い。例えば2016年~19年間では、中小企業は2023%であるのに、大企業は20%以下の企業が50社、10%以下が10社、マイナス30%余りの大企業もあった。こうした「租税特別措置」は、なお殆ど変わっていない。

 

他方で所得税も累進課税ではあるが、高所得者にはかなり有利となった。たとえば197484年間では、所得税は「10段階」で「最高税率」が75%であった。しかし現在は7段階となり、最高税率も45%に抑えている。さらに金融所得を分離して、これは累進課税ではなく、一律20%税率となっている。

 

このような税制も、国民の所得格差を拡大させてきた。現在の日本国民の「金融資産」は先述の通り2100兆円超と膨大だが、それは一部の高所得者に偏っている。したがって所得税の累進カーブをさらに急勾配にし、相続税と贈与税も同様に累進化率を高めるべきだ。また「金融所得分離課税」を廃止すべきである。

 

 

さて少子化問題はじめ多くの問題を抱える日本経済と財政に鑑みて、「GDPの1%以内と定められていた防衛費」を2%に拡張すべきでない。外務省および防衛省はアメリカに隷従するのではなく、もっと広く「外交による防衛力」を磨き、「反戦世界の確立」を目指すべきである



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