生産年齢人口の減少と企業倒産
2024年度の企業倒産は、前年度12.1%増の1万144件で3年度連続の増加となった。 懸念された年間1万件を11年ぶりに超え、2013年度の1万536件に次ぐ高水準である。またこの倒産はすべてのエリアにおいて、2年連続で前年度を上回った(東京商工リサーチ)。このような企業倒産の事由は「人手不足」「後継者不在」「ゼロゼロ融資の返済困難」「物価高騰」などである。このうち特に「人手不足」は、次表のとおり生産年齢人口の減少から、長期的に深刻な問題である。
(表1)総人口および生産年齢人口(15~64歳)とその対総人口割合% ならびに高齢化率%(65歳以上人口の割合) *人口単位:万人 資料:厚労省の統計より算出 |
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1980 |
1990 |
2000 |
2010 |
2025 |
2035 |
全人口 15~64歳人 (割合%) 高齢化率 % |
1億1703 7888 (67.4) 9.1 |
1億2358 8614 (69.7) 12.1 |
1億2684 8638 (68.1) 17.4 |
1億2811 8174 (63.8) 23.0 |
1億2564 7170 (58.5) 30.0 |
1億1514 6494 (56.4) 32.8 |
生産年齢人口は2000年をピークに、それ以降は減少し続けており、25年現在では2000年より1468万人も少なくなった。したがって企業は人材確保に走り、「有効求人倍率」が1.6倍に跳ね上がった。労働市場は「売り手市場」で、初任給が月給30万円にも達する企業も続出している。
このような企業競争に付いていけない企業や、労働条件が悪く従業員の退職が続出する企業が倒産する。2019年は「労働力不足倒産」が426件であったが、その後、労働力不足倒産が年々増加している。また労働力不足を補うために、新たな設備機械や自動システムの導入により、資金繰りが出来なくなって倒産する企業も増えている。
「労働力人口」の増加-----女性労働者およびシニア労働者の増加
しかし、このような傾向の悲観的な見方を覆す事態も、進展してきた。生産年齢人口は減少しているが、「労働力人口」が増加傾向となっている。これは「労働の意志と能力」を持つ「就業者と完全失業者の合計人口」であるが、それが2012年から増えている。24年の「労働力人口」は、6957万人と7000万人に接近した。なぜならシニア労働者と女性労働者が増加しているからだ。
65~69歳の高齢者の50%以上が、75歳以上の10%以上が現役で働いている。また女性労働者も2024年には3157万人と過去最高となった。そして2035年までに「労働力人口」が、男性は79万人、女性は139万人増えるという。すでに「女性の正社員人数」が、「女性の非正社員人数」を上回り、表2のとおり全労働力人口の45%ほどが、女性労働力である。
このような傾向は「仕事と育児との両立」の工夫を、国家も企業も導入してきた成果である。したがって結婚や育児のために仕事を離れる「女性就労グラフのM字カーブ」も解消してきた。さらに未婚女性も増えている。これらから2024年の医療・福祉関連の就業者は、02年より94.5%も増えている。同時にIT化により「情報通信業」でも、84.8%増である。
(表2)女性労働力の推移:全労働力(A)と女性労働力(B)およびB/A%(総務省統計より作成) |
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2000 |
2010 |
2022 |
全労働力人口(万人) 女性の労働力人口(万人) 女性の割合(%) |
6706 2753 40.7 |
6632 2783 42.0 |
6902 3096 44.9 |
しかしこの傾向も「少子高齢化」の人口動態からして、いつまでも続きはしない。すでに「労働力人口」が2020年から減少し始めたという調査もある(厚労省調査)。先述の「医療福祉」「情報通信」とは逆に、「宿泊業・飲食サービス」および「建設業」では、就業人口が減少している。
前者の減少はコロナ禍によるところが大きく、最近はコロナ後の「インバウンド需要」で回復気味だが、人手不足で十分な回復が見込めない。他方で建設業は資材価格の高騰や人件費の高騰で、24年の就業者は477万人と、コロナ禍前の19年と比べて4.6%減少し、建設業の24年の倒産は1890件と10年間で最高となった。
この建設業倒産をやや詳しく見ると、その倒産の9割が、社員10人未満の会社であり、大工やとび職など「職別工事業社」だ。倒産事由は「技能者不足」「24年4月に導入された時間外労働の上限規制」などであるが、また「ゼロゼロ融資利用倒産」も143件である。しかしこのような倒産に対して、「大手建設業による下請け企業支援」の傾向も出てきた。
例えばマンション建設大手の「長谷工コーポレーション」が、承継が不可能となった「給排水や空調設備の施工専門企業」を子会社化した。また住宅メーカー「住友林業」やゼネコン大手の「大林組」は、協力会社からの経営相談を受ける「専門窓口」を設けた。ちなみに住友林業による住宅の約6割を、2000社ほどの協力施工店が担うという。
このように大手建設企業は「下請け子会社の支援」に乗り出すが、それは下請け会社の倒産の波を、大手も直ちに受ける結果となるからだ。これまで製造業をはじめ様々な業種において、大手が下請けの製品やサービスを異常に安く買う「大手による買い叩き」が横行している。それが下請けを泣かせて、「格差・消費不況」を深刻にしてきた。
しかし以上のごとき建設業大手の経営策は、この悪慣習の方向転換に繋がる。労働力不足やその他の理由による「中小企業倒産」が、これ以上増加すれば、それは大手企業に直接響く。それゆえ建設業界のこの方向が、多くの他の業界にも波及するであろう。それにより業界の「過当競争」も緩和され、所得格差も緩和し、不況の出口も見えてくる。
少子高齢化による生産年齢人口減少が、とくに高校卒業で働く人材を減少させている。これが、とりわけ地方の産業や生活を困難にする。したがって地方行政も、新たな取り組みが不可欠となってきた。それは外国人の人材を受け入れて、労働力を維持するという施策である。2023年時点の「在留外国人」は322万3858人である。
政令指定都市アンケート(朝日新聞24年10月)によると、これら都市の4割強が「国際交流協定(MOU)」を結んでいる。それは「海外の自治体や大学からの人材受け入れ」に関する協定である。そして協定している海外において「ジョブマッチング」を開催し、外国人の企業人材を採用する地方自治体もある。
ちなみに外国人の「技能実習制度」が、27年までに「育成就労制度」に代わり、外国人労働者が転籍しやすくなるから、自治体間の奪い合い競争も生じよう。地方自治体は、外国人住民を増やし、「彼らとの共生」の取り組みに積極的になっている。そして国に対して、このための「財政支援」や「外国人政策の基本法の制定」さらには「外国人材の地方定着施策」を求める地方自治体もある。
このような流れは、好ましい本来の世界秩序に繋がる。世界秩序に関しては国家の枠を基本に置き、グローバリズム(自由貿易主義)が展開したが、他方で国内における地域の自立性を重視するリージョナリズム(地域主義)の動きが強まった国もある。
しかし「秩序ある競争(orderly competition)」を無視する野放図な「自由貿易主義」が、「世界の南北問題」を引き起こし、世界所得格差を拡大させた。加えてこれが1929に始まる「世界大恐慌」から、「ブロック経済」と「第二次世界大戦」にも繋がった。また今日ではトランプ政策が、世界の経済を、「自由貿易」に反する方向に導こうとしている。
これら幾つかの悪しき歴史に鑑みて、世界は「秩序あるグローバリズム」と「国内の地域重視のリージョナスム」とを、同時に追求しなくてはならない。そしてこの二つの方向の双方を追及しうるのが、筆者の「地域固有の国際化」(ヴァナキュラー・ユニバーサリゼーションvernacular universalization)である。
先述の日本の地方行政は、この「地域固有の国際化」に向かっている。それは自由貿易ばかりでなく、互いに隔たった世界の諸地域間で、それぞれのヴァナキュラーな文化や経済を承認しあい、しかもこれらの諸地域が相互に依存しあう「地域と国家および世界の在り方」である。
災害ボランティアの「自治体間国際協力」など、これまでの「姉妹都市」の関係を深めて、異なる国の自治体どうしが相互に多様な交流をする自治体もある。もともと基本的に「地域」なしの「国家」も「世界」もあり得ない。同様に孤立した地域もあり得ない。それ故これからの世界は、この双方の結合を強化し、「地球共同体」の理念である「ヴァナキュラー・ユニバーサリゼーション」を実現していくべきである。
ちなみに筆者は、この」「地域固有の国際化」を40年間ほど強調し続けているが、実際にその方向が次第に見え始めたと言えよう(『世界経済動態論----ナショナリズム/ユニオニズム/グローバリズム』早稲田大学出版1983、 『社会科学のための哲学』行人社1986、 『世界システムの「ゆらぎ」の構造----EU・東アジア・世界経済』早稲田大学出版1998)。
非正規雇用・男女格差の拡大と子供出生数の激減
日本の子供出生数(外国人を含む)は、2017年に100万人の大台を割って以来、下がり続けて24年72万988人と過去最低となった。また出生数に影響する婚姻数も減少傾向で、24年は戦後2番目に少ない49万9999組であった。
15~49歳の女性1人の子供出産数平均の「合計特殊出生率」は、先進諸国はいずれも2を割り込み、人口減少傾向であるが、出生数の減少は先進諸国ばかりでなく、中国や韓国も厳しい。韓国は0.92、中国1.09、日本1.20と低い。その要因はいずれも「結婚に対する価値観の変化」「養育費の上昇」「避妊の普及」の三要素が大きいが、日本、韓国、中国
に関しては「国民の所得格差」も大きな要因である。
日本に関してこの点を見ると、30年も続く「不況」の中で、非正規雇用の割合が37~38%に増大して所得格差が拡大した(表1)。それゆえ生活困窮者も増大し、結婚や子育てが難しい人々が増えている。不況が続く中で企業が生き延びるために、非正規雇用の割合を増やしてきたが、同時に非正規雇用の賃金を抑え込んできた(表2)。
(表1)全雇用者数に対する非正規雇用者数の割合と全雇用者数の推移(厚労省統計より作成) |
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年 |
1984 2004 2015 2019 2020 2022 2023 2024 |
非正規雇用の割合% |
~15.3 31.4 37.5 38.3 37.2 36.9 37.1 36.8 |
全雇用者数(万人) |
3936 4975 5304 5688 5655 5689 5730 5771 |
(表2)23年の男女別の正規雇用月給およびフルタイム非正規雇用月給(万円) および非正規雇用月給の正規雇用月給に対する割合(カッコ内%) |
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男性 女性 全体 |
正規雇用 |
35.4 27.6 32.8 |
非正規雇用 |
24.8(70) 19.9(70) 22.2(72) |
他方で表2のとおり女性の給与が、男性の給与よりかなり低い。厚労省の調査では、女性正社員の賃金は男性正社員賃金の75.8%(24年6月)に止どまり、OECD加盟国では韓国とラトビアに次いで男女格差が大きい。これも少子化の要因となっている。
また日本の「残業代」が安いことも、貧困世帯を増やし所得格差を大きくして、少子化の要因となっている。残業代は「労基法」で、通常の賃金の1.25倍以上と定められているが、日本以外の先進諸国では約1.5倍である。したがって日本の経営者は、現在の従業員に残業させる長時間労働を選択し、従業員は長労働時間の割に給料が上がらない。
これが1.53倍となれば、残業させるより、新規雇用のほうが安くなるはずだ(産別労組JAMの試算)。さらにEUでは11時間の「勤務インターバル」が義務付けられている。勤務終了後から11時間経なければ次の勤務に就くことができない。日本ではこのようなインターバル制度がないことも、長時間労働とくに非正規社員の長時間・低賃金労働の要因である。
賃上げには中小企業の「拮抗力」が不可欠
賃金分布の中央値が年収254万円であるが、その半分の127万円(月収10.5万円)に届かない世帯が貧困世帯といわれる。もっとも貧困線は世帯の人数により異なるから、一般の貧困線は1人世帯で127万円、2人世帯180万円、3人世帯220万円、4人世帯254万円だという。この貧困世帯は1980年には全世帯の8%に過ぎなかったが、現在は15.7%に増加した。ちみに韓国では14.8%である。
17歳以下の全子供数に対する貧困世帯の同子供数の割合が「子供の相対的貧困率」であるが、それは1人親の家庭では44.5%、母子家庭は51.4%で、全体では11.5%の225万人だ。これは子供9人に1人の割合である。彼らの多くは学校給食以外には、まともな食事ができていないという。
そこで政府は「少子化対策」として新たに「子供・子育て支援金3.6兆円」を導入して、「児童手当の拡充」「高等教育の負担軽減」を目論む。さらに国民の可処分所得の増加を狙い、所得税や社会保険料に関する「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」などの見直しと、何よりも「賃上げ」を推奨している。
果たしてどの程度の効果が期待できるか。ちなみにドイツでは,多額の「子供養育手当Kindergeld」を実行してきたが、「子供を社会で育成する」という政策のフランスやスウェーデンほどの効果を上げていない。他方で日本の「国の最低賃金目安」は、賃金分布の中央額の45%に過ぎないが、フランス、イギリス、韓国などでは同6割ほどである。
それゆえ石破政権は「最低賃金」を2020年代に全国平均で時給1500円にする目標を立てるが、現在は国の目安が1055円であるゆえ、この目標のためには、年平均7.3%の賃上げが必要だ。しかし中小企業ではこれが難しい。日本商工会議所の調査では、75%以上の中小企業が困難と回答している。
ちなみに「労働分配率(労務費/付加価値額%)」は、資本金10億円以上の大企業は34.7%であるが、全雇用の70%を雇用する中小企業では66.2%にも達しており、賃上げが難しい。それゆえ大手による「中小企業の買い叩き」を抑制し、中小企業の正当な利益を保証することが、きわめて重要である。
ようやく「公取」も、この問題を取り上げ始めたが、効果はあまり上がっていない。したがって「中小企業」の「同業者組織」および異業種を含む「地域業者組織」の結束により、第3者も巻き込んで「大企業に対す拮抗力(ガルブレイスCountervailing Power)」を行使することが不可欠であろう。
他方で「子育て」一般を、政府がさらに支援する必要がある。しかし将来の年金問題を抱え、また「個人の高額医療費負担増」を検討するほどに財政は逼迫している。それゆえ財政が、より一層の「子育て資金」をどのように調達するかが問題だ。幾つかの可能性が考えられるが、まずは「法人税」「所得税」の見直しであろう。
ちなみに消費税が導入された1989年から2019年間の「消費税税収総額」は397兆円であった。これに対して法人税と所得税の税収額は、「租税特別措置」および「金融所得分離課税」などにより同期間に大幅に減少している。「法人税減収総額」が298兆円、「所得・住民税減収総額」も275兆円で合計573兆円の減収(19年参議院予算委員会)。これらより「法人税制」および「所得税制」の改革が不可欠なことは明白である。
例えば22年度、23年度の法人税額は、前年度より1.3兆円および1.7兆円減少したが、「外国税額控除制度」「賃上げ促進減税」「研究開発減税」その他の多くの「租税特別措置」があるからだ。しかもこれら「租特」の恩恵の多くが、大手企業に向く結果となっている。他方で大手企業は「円安」で21~23年度まで過去最高利益を更新し、それゆえ「民間企業の内部留保」は過去最高の600兆円超となった。
したがって「租特」を整理・削減し、大手からの「法人税実効負担率」を大幅に伸ばすべきだ。加えて問題の多い「基金事業」や「防衛費急増」も見直すべきだ。政府は補助金などで「AIと半導体分野」に10兆円以上も支援する。例えばラピダスの研究開発に9.2億円を投じ、25年度の当初予算でも1000億円計上した。このような政府支援は、エルピーダメモリなどの失敗例からして、大いに問題である。
こうした「基金事業」に加え「防衛費急増」の見直しと、さらに国債費」を縮小する「無利子百年国債による国債借り換え」などの工夫も不可欠である。もう一つ「所得税」も再考すべきだ。勤労所得と金融所得を一本化して、これも累進度を急カーブにすべきである。74~84年代の最高税率は75%であったが、現在は45%まで下げている。
ちなみに所得が1億円以上の所得税率は、かなり低い結果となっている。この高所得は「金融所得」の割合が大きく、金融所得税は累進制なしの20%に過ぎないから、高所得者の「総所得税率」が低くなる。所得税を一本化して、この「1億円の壁」を取っ払えば、かなりの所得税増収が見込まれよう。
昨年に続き、今年も4月にロゴス会および経済学研究会を開催いたします。
※経済学研究会のzoomオンライン参加も可能です。
オンラインミーティングの情報は「ロゴスの会会員ページ」をご確認ください。
予約人数の調整がありますので、下記の出席連絡フォームに3月15日(土)までに
ご回答いただけましたら助かります。
<開催日2025年4月12日(土)>