2019年の回顧と2020年の景気展望----アベコベノミクスで不況脱出厳しい

 

(一)2019年の回顧----不況の最大要因は所得格差拡大と世界不安

         賃金の低下と所得格差の拡大で消費不況の持続----あべこべノミクス

 

 政府の「景気回復の持続」の宣伝とは逆に、20年以上も続く「消費不況」から2019年も脱出できないばかりか、企業利益も下落し、貿易赤字も高進した。たしかに大手企業は2018年まで過去最高益を数年間も更新し続けたが、昨年は大きく落ち込んだ。他方で中小企業の利益は逆に低迷し続け、いっそう厳しくなってきた。

  

 これらの国内的要因は「見当違いの政策」「人手不足」「実質賃金の低下」「所得格差拡大」などに加えて、「消費税アップ」「生産と設備投資の低迷」である。さらに海外的要因からのマイナスも大きく、「米中貿易摩擦」「米EU貿易摩擦」「日韓政治摩擦」などに拠って「輸出」も激減している。また「米イラン対峙・原油問題」などの影響も大きい。

 

 しかし不況持続の最大の国内要因は、「所得格差」の拡大からくる「実質賃金全体の低下」、それゆえの「消費低迷」である。被雇用者の約38%以上が非正社員であり、所得格差ゆえに、表1の「平均賃金」や「家計消費平均額」に届いていない家計が、半分以上で圧倒的に多い。しかも「実質賃金」はこの平均値でも、1919月の指数平均は91で、2000年度の113より20%以上も低い(表1)。

 

 

(表1)賃金指数、家計収入および家計消費額

 

2000年度

2017年度

2018年度

19年Ⅰ

19年Ⅱ

賃金指数

家計収入

家計消費

110113

56.3

31.8

10095

50.0

28.5

10092

53.2

28.4

8581

48.2

29.2

105100

62.1

29.2

*賃金指数は2010年=100(カッコ内は実質賃金指数) *家計収入(二人以上の勤労者世帯)および消費額(二人以上の世帯)は月平均(単位は万円) 

 

  この表の家計収入は「二人以上の勤労者世帯の収入」であるが、「全世帯の家計収入平均」は年収440万円、月額37万円である。しかも所得格差が大きいから、これ以下の家計が過半数である。さらにパートやアルバイトを含む全家計の年収は、平均300万円(月額25万円)で、これ以下の家計が全体の37%である。

 

 このような「所得格差・消費不況」にも拘らず、政府・日銀は、「消費増税」をはじめ、格差を実質的に拡大する政策を導入している。「少額投資非課税制度(NISA)」や「累進性のない一律20%の金融所得分離課税」も同様な類だ。さらに「日銀」と「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、大量に株式を購入している。これは「株価」を吊り上げ、景気回復のように見せる「誤魔化し策」だ。株式投資をしている国民は17%に過ぎずないゆえ、この政策は大手企業と高所得者を潤し、所得格差を拡大する(表2)。

 

過去最高から激落の企業利益----大手製造業の経常利益が急落

  中小企業に被雇用者の70%以上が雇われているから、実質賃金の低下は「中小企業」の経営難に拠るところが大きい。それは後述のとおり「円安政策」によって、いっそう厳しくなったが、表2のとおり企業収益総額は2018年の上半期まで、過去最高の更新であった。しかし、これは大手企業の膨大な利益ゆえであり、中小企業には回らなかった。 

 

(表2)企業(金融業・保険業を除く)の経常利益指数(10年度=100)と円レートおよび

日経平均株価(円)の推移  *1819年のローマ数字は四半期で年換算値   *四半期は暦年

年度

12

13

14

15

16

17

18ⅠⅡ

18 ⅢⅣ

19

19

19

全産業

製造業

非製造

為替レート日経平均

111

99

117

82.9

9102

136

137

136

100.2

13578

148

150

146

109.7

15460

156

148

161

119.9

19204

171

152

182

108.3

16920

186

196

186

110.8

20209

213

228

211

108.4

22341

170

186

167

108.6

22280

203

165

229

110.2

21264

189

156

 211

109.9

21417

141

118

156

107.3

21264

 

 大手企業の増益は「ドル建て輸出の円換算額」と「海外子会社益からの配当の円換算額」が「円安政策」によって増大したところが大きい。日本の輸出は95%が大手企業に拠るから、中小企業にはこうした利益は回らない。それどころか多くの中小企業が、円安による「輸入原材料価格」の高騰から逆に厳しくなった。

 

  しかし企業利益全体も、18年下期から急激に落ち込んでいる。とくに製造業は18年の過去最高益の約半分までの低下だ。これには先に挙げた海外事情に拠る輸出の減少と、世界経済全体の下振れが大きく影響したが、もう一つ「円高転換」によって、大手企業が、円安利益を享受できなくなったからだ。逆に中小企業は、「円高による輸入原材料価格の低下」で、一息ついている。他方で大手企業の最近の減益の長期的要因は、利益を「内部留保」と「自社株買い」に回し、設備投資を抑制してきたことである。

 

 さらに日銀の「ゼロ金利・マイナス金利」によって、金融業も保険業も18年度から利益を大幅に落としている。地方銀行はこの政策に人口減少も加わって、極めて厳しくなった。したがって政府は、地銀の経営統合を促すべく「独禁法」を適用しない特例法をまとめている(表3)。 

 

 (表3)金融業・保険業の資本金別経常利益の前年同期比増減率(四半期、%)

資本金

18年Ⅰ

18年Ⅱ

18年Ⅲ

18年Ⅳ

19年Ⅰ

19年Ⅱ

19年Ⅲ

10億円以上

1~10億円

1千万~1億円

   16.1

11.2

 3.7

1.5

  52.3

   4.5

18.3

1.7

9.5

28.1

 3.3

27.3

9.5

4.8

   1.2

10.4

5.6

32.23

14.3

9.5

11.2

 

(二)2020年の展望---世界経済不安に共振で低成長の持続----消費低迷を

   「ネット通販」と「インバウンド消費」「オリンピック」が 緩和するか 

 賃金の低下と所得格差の拡大により、低所得者は消費に回すカネがない。他方で高所得者はカネがあっても「消費飽和状態」ゆえ、消費全体が伸び難い。これに「ネット販売」が加わり、コンビニとドラッグストア以外の「小売店販売」は余り伸びていない。とくに百貨店販売は2000年より40%も縮小した(表4)。 

 

コンビニとドラッグストアは、比較的経済的余裕のある高齢者と、インバウンド消費により好調であるが、コンビニも限界で、19年からは店舗数を削減している。ただし1979月期は消費増税前の「駆け込み需要」で、小売販売が全般的に伸びた。とくに家電販売は、クーラー、冷蔵庫など高額商品の駆け込み販売が大きかった。またインバウンド(訪日外国人)の消費も、上半期だけで2.4兆円と消費不況を下支えしている。さらに「ネット通販」は17年が約16.5兆円、18年と19年は18兆円に拡大した。 

 

(表4)全小売販売額(兆円)と大型店販売額指数  *19年は年換算値

 

全小売

販売額

百貨店

スーパーマーケット

コンビニエンスストア

ドラッグ

ストア

大型家電

販売店

ホーム

センター

16

17

18

19年ⅠⅡ

19年Ⅲ

191011

139.9

142.5

145.2

143.0

147.2

112.6

66

65

61

59

59

58

103

103

104

101

105

101

179

184

191

188

203

185

116

123

131

133

145

118

92

95

97

99

117

83

99

98

100

96

106

89

*百貨店、スーパー、コンビニは2000年=100の、それ以外は2014年=100の指数

 

  これらから19年第4四半期の先の「駆け込み消費」の反動は、前回の14年増税の時の反動より大きかった。1011月の全小売販売は、79月期より25%以上も落ち込んでいる(表4)。20年も企業収益と実質賃金の低下傾向および国民の将来不安から、同様の消費低迷が続く。ただし日本の不況から「円安」が進めば、訪日外国人が増加し、この消費増にオリンピック消費も加わる。ちなみにインバウンドの消費額は、163.7兆円、174.4兆円、184.5兆円、19年は5兆円が期待されたが、なお不明である。

 

輸出激落から幾分か上向きへ----米中貿易摩擦のゆくえ次第

 日本の貿易は16年ブレグジット影響の「円高」と、17年の「中国・アジアの景気回復」とにより、両年は「貿易黒字」であったが、それ以外は11年から「貿易赤字」が続いている。とりわけ「米中貿易摩擦」による「中国・アジア景気の悪化」と「日韓政治摩擦」によって、19年は輸出入ともに減少し、輸出は18年の81.6兆円から19年は76兆円へと10%ちかい減少だ。

 

 日本の主力輸出産業の家電や自動車は、すでに海外生産の割合が6080%であるから、輸出数量は2010年より10%ほど少ない。それでもアジア経済が好調になると、1718年のように輸出数量も伸びる。しかし世界経済は先に挙げた幾つかの問題を抱え、20年もさらに低成長となるから、日本の輸出数量も輸出額も減少が続き、簡単には貿易赤字も解消しない。 

 

(表5)輸出入額(兆円、1000億円未満四捨五入)と貿易指数10年=100

半期およびローマ数字(四半期)は年率換算値   *通関ベースの輸出入額、

 

 

輸出額

輸 出 指 数

輸入額

輸 入 指 数

金額

数量

 単価

金額

数量

単価

15年

16年

17

18

19

75.6

70.0

78.3

81.5

76.9

112

104

116

121

114

90

90

95

97

92

125

116

123

126

124

78.4

66.0

75.4

82.7

78.6

129

109

124

136

129

103

103

106

109

108

125

106

117

124

112

 

  しかし米中両国の貿易交渉が、農業分野や金融市場の開放その他で一部妥結し、また中国政府が「積極財政」に転換した。これらから中国経済が上向き、それによってアジア景気の下振れが止まる可能性が出ている。したがって日本の対アジア輸出もある程度回復し、先の製造業の利益激落を下支えするであろう。

 

生産と設備投資は低水準の持続----世界経済も低成長

  国内消費も輸出も伸び悩んでいるゆえ、生産も伸びず、少し生産を増やせば、直ちに在庫が増加する。こうした状況から鉱工業生産は2010年度の水準を下回り続け、17年に漸くこの水準を超えた。そして19年の第三四半期は、消費増税前の駆け込み需要から、生産を10年水準より3%伸ばしたところ、在庫が同水準より50%以上も増えた(表6)。

 

この在庫状況と、先述の輸出および消費の動向から、今後も生産はそれほど伸びない。また設備投資の先行指標「船舶・電力を除く機械受注額」は、1910月まで4か月連続の減少だ。表6のとおり必要な設備投資に力を入れる時期もあるが、それが続かない。また消費増税前の駆け込み需要の反動も大きく、10月の機械受注額は、前月比6.0%の大幅減となり、鉱工業生産指数も98.9で前月比4.2%の落ち込みとなった。

 

(表6)鉱工業生産・生産者出荷・生産者在庫・設備投資額の指数と新設住宅戸数(単位千戸) *四半期(ローマ数字)は年率換算値 *指数は2010年度=100

 

15年度

16年度

17年度

18年度

18年下期

19年Ⅰ

19年Ⅱ

19年Ⅲ

生産

出荷

在庫

設備投資

住宅

97.8

96.

111.3 

129

  921

97.7

96.3

109.8

130

974

102.5

100.1

115.4

137

946

103.1

101.5

115.7

 189

953

103.0

101.0

119.8

141

970

101.1

100.2

121.4

189

864

101.6

101.4

121.9

131

934

103.2

101.3

152.4

146

943

 

 先の駆け込み消費があったにもかかわらず、1979月期の「金融・保険業を除く全産業の売上高」は、前年同期比2.6%減と、四半期としては12四半期ぶりに減少した。とくに製造業では海外向けの産業機械やスマホ向けの電子部品が不振であった。しかし先述の米中貿易摩擦の緩和が、この減少を幾分か緩和するであろう。政府も「設備投資減税」や「ベンチャー投資が『大企業は1億円以上、中小企業は1000万円以上』ならば、出資額の25%を法人税の課税所得から差し引く」などの政策を導入するが、その効果はなお見通せない。

 

 このような状況から四半期ごとに実施する「日銀短観」も、12月まで4期連続で悪化し、20133月調査以来、69か月ぶりの低水準。大企業製造業のDIがゼロで、とくに自動車や機械の悪化が目立つ。他方でIMFの見通しでは、2019年の「世界経済成長率」が3.0%で、これはリーマンショックでマイナスに落ち込んだ2009年以来の低さであり、2020年も3.4%の低成長率だという。

 

 たしかに米中貿易摩擦、米EU貿易摩擦、ブレグジット問題、原油価格上昇、さらに日韓政治摩擦など、低成長率を予測させる不安要素が多い。これらの諸問題も、幾分か緩和方向に動き出したが、不透明である。加えてアメリカの「株価バブル崩壊」の連鎖も危惧される。ちなみにOPECはロシアなど非加盟国と「協調減産」の拡大を協議しており、すでに12月に入って「北海ブレント原油」の先物価格は1バレル63.39ドルで、19年の最高値であった4月の75ドルに迫った。

           (本稿は「コンパス1月上旬号」の拙論に加筆した見解)