IT・生成AIの展開と近代文明の行方-----ジンメル、ゾムバルトの正鵠か----

ITの「リモートワーク」は限界か!

コロナ禍で「リモートワーク」が浸透し、言わば「企業のコミュニケーション貯金」が減少した。お互いにオフィスで働いていれば、コミュニケーションが頻繁に行われ「コミュニケーション貯金」が貯まる。しかしリモートワークやテレワークでは、これが貯まらず減少していく。

 

他方でこの貯金が貯まっている間は、オンライン会議など「リモートワーク」もスムーズである。しかしリモートワークの間に、この貯金が減少すると、リモートワークも難しくなる。こうした事情からリモートワークは、次第に減少する傾向にある。とくに「IT企業」が先にオフィスに戻っており、社員に出社を要請していると言う。これらから「渋谷周辺のビル再開発」が進むとも言われる。

 

この事情は、テレワークをいち早く導入したアメリカのIT企業でも同じだ。コロナ禍の前にIBMやヤフーはテレワークを廃止し、グーグル、アップル、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトなどもテレワークに積極的でなく、普段はオフィス勤務をする社員が一般的だと言う。加えて新オフィス、無料社員食堂、車の点検サービス、多様なサークル活動を提供し、出社したくなるオフィス作りをした。

 

ただし現在のアメリカでは「商業用不動産(CRE)」が、値崩れを起こしている。全米の「オフィス空き室率」は、この30年間で最高の17.8%となった。これはインフレ抑制のための10回にわたる利上げ、それゆえの景気低迷、大手銀行の破産と銀行の貸し出し抑制、これにIT企業の低迷が重なっているからだ。

 

ちなみに22年のアメリカでは、金利引き上げが「高所得者の預金増」を齎し、金融機関の融資額も前年比20%増と伸びた。しかし金利上昇から「債券価格急落」となり、「銀行の含み損」は、約83兆円と巨額へ。他方で高所得者の預金増は、大手行の50%で「預金保護上限額」の25万ドル(約3400万円)を超えた。したがって高額預金者は預金を銀行から引き揚げ、シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行に続き、ファースト・リパブリック銀行の史上2番目規模の金融機関破綻となった。

 

危険性を伴う「人工知能AI」

閑話休題。ITは「リモート診療」や「リモート学習」を可能にし、また乳幼児や介護者を抱える働き手に取って好都合な面もある。いずれにせよ現在の経済は、先のとおりIT絡みでも揺れるが、IT は「チャットGPT」などAI(人工知能)へと展開している。しかしAIに対しする悲観的な見解も無視できない。

 

アメリカの非営利団体「Center for AI SafetyCAIS)」は「生成AIによる人類絶滅リスクは、パンデミックや核戦争と同様に、世界の最優先課題として優先的に対処しなければならない」と発表した。最新の生成AI技術が「人類絶滅のリスクに繫がる」という、この書簡に学者など350人が署名した。

 

オープンAIのサム・アルトマンCEOをはじめ、トロント大学名誉教授ジェフリー・ヒントンやGoogle Deep Mindのデミス・ハサビスCEOなど、AI業界に関係する著名人も多く署名している。さらにテスラのイーロン・マスクも「チャットGPT」を「社会や人類に深刻なリスクの可能性」と批判し、「GPT4」より強力なAI開発を停止するよう呼び掛けた。

 

 科学技術の展開は多方面に及んでいるが、一方で人間の有機体的構造を模倣して、これを物理的な構造に解釈しなおし、自動制御的機械を作る。これは一定の感知能力を持ち、自己コントロールの機能を持った機械であるが、その先端を行くのが「生成AI」であろう。我々は、AIが送ってくる情報に基づいて物理的、化学的、生物学的な構造と機能をコントロールする。

 

しかしジンメルが「手段の弁証法」で警告したように、このような技術がますます多くの我々の精神的な諸力を吸収していくので、技術が自己目的化し、逆に人間が技術に服従するという危険性にまで至っている。

 

これを別の角度から見ると、生成AIがもたらす知識量を、大衆自身が内面的に加工しえず、消化不良を起こして自分のものにできない。したがってゾムバルトの科学技術論のとおり、こうしたうわべの知識によって、人間が支配されてしまう傾向を否定できない。 

 

さらに生成AIは誤情報ばかりか、文章や絵画・音楽および画像など、文化一般に「特定の価値観を」反映させることも可能だ。したがって社会全体がコントロールされかねない。それは倫理観や人間の在り方、さらには文明の在り方全般に関する問題を含むゆえ、先の「CAIS」の「人類絶滅のリスク」の表明となったと言えよう。

 

 

それゆえEUは「AI利用の包括的な規制法案」を欧州議会で承認した。日本でも「生成AI戦略会議」が開かれ、文部科学省は全国の大学と高等専門学校に、留意点を通知した。それは情報収集や翻訳など、利用が想定される際の「注意点一般」の喚起だが、未だこれは「規制法案制定」には至っていない。