日本の「再エネ」遅れと「原発」の笑止千万

         

(1)温室効果ガス---EUは減少、日本は増加

2021年グラスゴーの「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、2050年までに「「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる(カーボンニュートラル)」と謳った。そしてこれに参加した国・地域は144となったが、これらの国・地域のCO2排出量は、世界全体の排出量の42%に止まっている。

 

 これとは別に190の国・企業が参加する「石炭火力からの脱却に関する共同声明」(COP26)があるが、この宣言には日本もアメリカも参加していない。さらに「100%ゼロエミ車宣言(すべての新車を温室効果ガス排出ゼロ車へ)」には、アメリカ、中国、ドイツ、日本は参加していない。

 

日本は石炭火力発電ばかりでなく、全般的に温暖化対策意識は高くない。それゆえ1997年の「京都議定書」(第3回気候変動枠組条約締約国会議)の「1990年比6%温室効果ガス削減」を「海外の排出枠」を買うなどにより、形式的にはクリアしたが、現在の日本の温室効果ガス排出量は、「90年比実質14%増」となっている。

 

ちなみにEUは「京都議定書」の6%をクリアし、2210月時点で30年までに「温室効果ガス」を90年比で55%削減する目標を立てた。この目標を目指して風力や太陽光、地熱、潮流などの「再生エネルギー」の「電源全体」に対する割合を、既に20年時点でイギリス31%、スペイン40%、デンマーク52%、脱原発を決めたドイツは50%を目指した。

 

温室効果ガス削減目標(202210月)  United Nations Climate Change:NDCRegistry

中 国

30年までにGDP当たりのCO2排出量を05年比65%以上削減、60年までにゼロ

     E U

30年までに温室効果ガス排出量を90年比55%削減、50年までにゼロ

    イ ン ド

30年までにGDP当たりのCO2排出量を05年比65%以上削減、70年までにゼロ

    ア メ リ カ

30年までに温室効果ガス排出量を05年比5052%削減、50年までにゼロ

    ロ シ ア

30年までに温室効果ガス排出量を90年比30%削減、60年までにゼロ

     日 本

30年までに温室効果ガス413年比46%削減、50年までにゼロ

 

これに対して日本の「再エネ」の割合は17年時点で16%(水力を除くと8.1%)、21年は20%ほどである。他方で「温室効果ガス」に関してはこの表のとおり、30年に「13年比46%削減」の目標を掲げる程度だ。EUは同目標を90年比55%削減である。実はEUの排出量は既に90年比かなり削減しているのに対して、日本の排出量は、既に20年時点で90年より14%増加しているから、この13年比46%削減は、EUよりはかなり低い削減目標であり、この表の目標の50年までにゼロは難しい。

 

ところでIEA(国際エネルギー機関)は「カーボンニュートラル」を実現するために、「化石燃料の今後の開発投資は不要」という報告書(Net Zero by 2050)を出した。これを受けてEUの金融機関等を中心に、石炭関連事業からの「ダイベストメント(投資撤退)」の動きが出ている。日本でも3メガバンクは「19年以降は石炭火力の新規事業への融資停止」を、また丸紅商事、住友商事も「石炭火力発電事業から撤退した。

 

(2)日本政府の消極的姿勢

では30年時点の日本の「エネルギーミックス」の政府見通しは、どうか。再エネが3638%、水素・アンモニアが1%ほど、原子力が2022%、液化天然ガス20%、石炭が19%、石油が2%の予想だ(公益財団法人国策研究会『新国策』20237月)。この再エネ比率は、先のEU諸国の20年時点で目指した4050%目標に比べると、可なり低い水準である。それは太陽光や風力の稼働率は天候に拠るゆえ、そのような再エネでは電力価格が2倍に跳ね上がるという推測理由に拠る。

 

しかしEU諸国の例からしても、この主張は疑わしい。また「再エネの貯蔵技術」は日進月歩、かつ日本が先行してきた技術である。したがって再エネ発電の一層の拡大と貯蔵が可能だ。これにより「原発」の割合を縮小すべである。現在は原発27基のうち、10基が稼働しているが、これをさらに増やし、また新たな原発を創設する見込みだという(前掲書)。

 

しかし「核燃料サイクル」の見通しもつかず、他方で原発の使用済み核燃料の貯蔵も限界に近い状況だ。しかも原発に対する「防衛コスト」や「事故に備える住民避難整備コスト」から、原発は極めて高い電源である。それゆえ福島第1原発の事故以来、政府は「原発を可能な限り低減する」と言う方針を立てた。ところが岸田政権は「原発を最大限活用」と方針を変えて、危険かつ高コストの方向に走っている。何故か。

 

それは経済産業省にとっては、「原発関連雇用」いわゆる「同省の原子力村」の維持が至上命令だからであろう。07年の中越沖地震で、出力820万キロワットの「柏崎刈羽原発」が火災で停止し、この電力供給がストップしたが、停電は1度もなかった。

 

これに対して東日本大震災で止まった「福島第1原発」の出力は250万キロワット、また同時に停止した「相馬火力発電所」は200万キロワット弱、したがって双方を合わせても「柏崎刈羽原発」の半分程度の出力に過ぎなかった。それにも拘らず東日本大震災の時は、経済産業省はアメリカの要請に従って「計画停電」を導入し、国民に原発の必要性を訴えた。アメリカは日本に核燃料を輸出しているゆえ、日本国内で「反原発運動」が生じるのを危惧したからだ。

 

要するにこの計画停電は、官僚によるアメリカ忖度と経産省のいわゆる「原子力村」の防衛ためであった。当時の経産省では「原子力安全保安院」に16課もあり、総勢800人が携わっていた。ちなみにアメリカは1979年の「スリーマイル島の原発事故」に際して、計画停電を導入して原発の必要性を訴えた。

 

 では日本の企業の「脱炭素化」の取り組み姿勢はどうか。企業に対する「サプライチェーンにおける脱炭素化を経営課題としているか」とのジェトロの問いに対して、「すでに取り組んでいる」もしくは「今後取り組む予定がある」との回答が、全体の74.3%に達し、21年度から約10ポイント増えている。この中で「再エネ・新エネ電力調達」との回答が40%ほどに達した。

 

ところで「太陽光パネルの生産設備」の世界のシェアは中国が76%で、日本も中国から大規模に輸入している。また風力発電タービン生産量も中国が世界1位となっている。したがって日本もこれらの中国依存を小さくすべく、それらの産業を新たに推進すべきだ。政府もこれに力を入れて、外国依存度とりわけ「一国依存」の割合を、可能な限り小さくすることが必要である。