政府借金と基金事業の無謀な増大――財政破綻を避けられるか!

円安による「消費者困窮」で「税収増」----「法人所得」過去最高

  国の一般会計税収は、20年度が608216億円、21年度67兆円379億円、22年度711373億円と、3年連続で過去最高を更新した。新型コロナウイルス感染拡大の経済へ影響が長期化する中でも、いずれも政府の税収見通しを上回ったが、物価高の影響で「消費税収」が伸びたことに加え、企業の好業績や賃上げにより「法人税」と「所得税」も上向いたからだ。

 

 法人税の伸びは、主として超低金利策の「円安」によって大手企業が過去最高益を、消費税の伸びも「円安」に拠る「物価高騰」ゆえである。上場企業約1300社の22年度決算(金融を除く)は、純利益が過去最高の35.6兆円(SMBC日興証券集計)。22年度の法人の「申告所得金額」は、前年比7.0%増の85.1兆円で、2年連続で過去最高を更新した。

 

 この前年度比の伸びは、料理・旅館・飲食店業が27.3%(約8500億円)卸売業が19.3%(約8.5兆円)、運送業16.3%(約6.3兆円)、全体の3割を占める製造業も3.2%増(約25.5兆円)であった。他方で消費者物価とりわけ「生成野菜を除く食料品価格」の前年比9%の伸びも、過去最高のガソリン価格と同様、その8割ほどが円安ゆえだ。

 

 したがって1ドル150円近傍の23年度の税収も、大手企業の過去最高益と消費者物価上昇とにより税収増加が見込まれる。しかし消費者物価の上昇から倹約が広まり、消費の落ち込みも見えるから余談はできない。

 

政府の借金----財政破綻の危機

 他方で国債や借入金などを合わせた政府の債務、いわゆる“国の借金”は、233月末の時点で12704900億円と、7年連続の過去最大を更新した。これは「国債」「借入金」それに「政府短期証券」をあわせた政府の債務合計である。223月末と比べた1年間の増加額は291916億円だ。

 医療や介護、年金などの社会保障費が膨らんだことに加え、新型コロナや物価高騰対策などとして、巨額の「補正予算」や「予備費」が計上されたからだが、その内訳は次のとおりだ。国債が11363830億円、短期的な資金繰りのために発行する政府短期証券が844993億円、借入金が496167億円。


 このなかで「短期証券除く日銀保有国債」は、236月末時時点で前年比9.9%増の5804902億円の過去最大で、発行残高に占める割合も5割を超える異常事態である。また国際通貨基金(IMF)がまとめた各国の財政状況によると、日本の「債務残高の名目国内総生産(GDP)比」は、約250%と先進国で最悪、財政破綻したギリシャより悪いという。
 

このような厳しい財政状況ではあるが、政府は先の「税収増の国民への還元」として「所得の期限付き定額減税」や「低所得世帯に対する現金給付」などを計画する。他方で防衛費の抜本的な強化に向けて、増額分の財源として、税外収入や決算剰余金も充てると言う。加えて「防衛増税」も公表してきた。

しかし高齢化によって社会保障費も膨らみ続けるゆえ、財政状況は一段と厳しくなる。ちなみに政府の手持ちの「NTT株5兆円規模」を売却して、防衛財源とすることも企図し、そのための「NTT法」の見直しをも目論む。しかし5兆の株売却は、当面は抑制だという。

基金事業の増大と無駄-----使用されるのは4

 政府は毎年度の予算とは別に、特定事業に数年度にわたり使うことが出来る「基金」を、膨大に計上している。多額の基金の計上は、バブル景気の1989年度ころ、リーマンショック後の2009年度ころ、東日本大震災の12年度ころ、そしてコロナ禍の今回が4度目である。今回はワクチン生産関連、脱酸素社会関連、先端半導体関連など多方面にわたる。

 

基金は長期にわたり使え、具体性が乏しくても予算が確保できるから、創設に関する検討が不十分となりがちだ。また基金は省庁などの国の機関とは別の組織に置かれるため、国民や監督官庁のチェックが働きにくい。これらの要因から、201419年度の基金事業は約200件、239月末時点も基金事業数は189件である。

 

また政治主導で規模ありきの予算編成の結果、基金総数も基金額も膨張しがちだ。例えば「経済安全保障重要技術育成基金」は、当初1000億円の予定であったが、自民党の要求で5000億円に膨らんだ。同様な事実が、その他の基金でも見られる。

 

さらに「経済対策の補助金」などに使う国の「基金」が急増し、次表のとおり主要な業務の多くを民間企に委ねる基金事業が相次いでいる。公的機関だけで執行を担えないほど、基金の規模が急拡大したためだ。また乱立した基金事業が競合することもあり、基金を委託された企業その他の組織も、十分に手が回らない。

 

22年度運営を企業に委ねる基金、単位億円   *資料:行政事業レビュー、朝日新聞1020日朝刊

基金名

所管省庁

基金設置法人

委託先企業

予算額

原材料安定供給対策、

ワクチン生産体制強化

リスキリング・キャリアアップ支援事

燃料価格激変緩和

中小企業事業再構築促進

廃炉・汚染水・処理水対策

中小企業イノベーション創出推進

住宅市場安定化対策(すまい給付金)

経済産業省

 同上

 同上

同上

同上

同上

内閣府

国土交通省

環境パートナーシップ会議

同上

同上

全国石油協会

中小企業基基盤整備機構

原子力安全技術センター

低炭素投資促進機構

住宅金融普及協会

みずほ*

同上

野村総合研究所

博報堂

パソナ

三菱総合研究所

野村総合*

電通

 55

1000

753

30272

5800

120

700

356

みずほ:みずほリサーチ&テクノロジー、野村総合:野村総合研究所、NTTデーター経営研究所など  

 

他方22年度末時点で休眠状態となっている基金事業も29あり、この残高は1.4兆円だという。こうした状況にも拘らず、たとえば22年度の第2次補正予算で「50基金事業8.9兆円」を予算計上し、そのうち表のとおり8事業の約3.9兆円を、民間企業に補助金を配る事務局を委ねている。これらも含めて「基金」の増大は「財政民主主義」を危うくしている。

これらの結果、基金の使い残しが毎年4兆円のペースで増え続け、予定の4割ほどしか使用されず、現在は全残高が16.6兆円となったが、この16.6兆円は「文教・科学振興予算」の3倍以上だ。基金の予算措置は国債を財源としており、この残高は国民の余分な金利負担に繫がる。ちなみに国の予算は19年度104兆円、20年度175兆円、22年度139兆円と膨張している。23年度は補正予算前で114兆円。

他方で23年度第1次補正予算は13兆円超だが、このうち4.3兆円を基金に充てる。実はOECDに加盟する38か国のうち8割で、政府から独立した「財政長期予測」を担う組織があるが、日本でもこうした組織を設立し、財政危機・将来不安に対する処方箋を早急に実行すべきである。

 

抜本的には「相続税および贈与税免除の無利子100年国債」によって、累積国債の全部を借り換えるべきだ。今や「個人金融資産」は2000兆円を超え、それが少数の高額所得者に集中している。それゆえ相続税および贈与税の累進率を急カーブにすれば、この膨大な個人金融資産が「相続税および贈与税免除の無利子100年国債」に向かい、この国債は消化されよう。