田村正勝コラム:社会に開かれた中小企業の談合こそが社会的正義------アベコベノミクスで中小企業と国民の困窮化-------


(一)消費不況----賃金低下で家計も収縮

(1)小売総額6兆円減-----家計消費額15%減少

 再び春闘の季節となったが、15年春闘の賃上げは被雇用者の30%弱にしか及ばず、ボーナスの恩恵も同様ゆえ賃金が下がり続ける。賃金指数は95年度の110.8に対して現在は100を切っている。物価上昇分を差し引いた「実質賃金」では、95~97年度より14~15%低くなった。この実質賃金は98年度から00、05、10年度を除いて、今日まで前年度比マイナスが続いた。

 したがって「家計消費」も趨勢的に落ち込んでいる。1か月あたりの家計消費額は95~97年度が33万円超であったのに、現在は29万円弱に低下した。これも98年度から11年度まで02、07、09年度を除いて前年度比マイナスで、97年度より15%超も落ち込んでいる。

 この賃金および家計消費の下落を受けて、小売販売額も低下した。94~95年度の総小売販売額は145兆円超であったが、現在はこれより6兆円以上少ない139兆円であり、近年はこの低下に「消費増税」が追い打ちをかけた。他方で円安によって海外からの旅行客が激増し、彼ら約2000万人の消費額年間約3.4兆円超が需要不足を補っているが、それでも小売販売総額は13年度より2兆円落ち込んでいる。

(表1)小売販売総額(年換算額、兆円)と大型小売店販売および賃金の年換算指数(10年=100)

ならびに家計消費額(月平均 単位:万円)

 

小売販売総額

百貨店

スーパー

コンビニ

賃金指数

家計消費額

 13年度 141.1 98.2 100.4 117.2 98.5 29.3
14年度 139.5 101.4 102.3 123.7 99.0 29.1
15年1~9月 138.9 99.0 100.0 129.3 93.9 28.7
15年10~12月 145.8 103.1 107.7 136.3 112.1 29.1

  *各官庁統計より作成

 

(2)コンビニだけ好調はなぜか!-----非正社員の増加と生活苦ゆえ

 ところで表1でコンビニだけが売り上げを伸ばし、また店舗数も増やしているが、これは非正社員など所得が低すぎて、結婚できない単身世帯が増えていることと、一人暮らしの高齢者世帯が増えていることが関係している(以上は表1参照されたい)。

 このように15~20年も続いている日本経済の不況は、賃金低下による消費不況である。ところが後の表2および表3に見られるとおり、大企業の利益はきわめて高く、円安により14年度は過去最高を更新し、15年度も連続で過去最高を更新の見込みだ。これに反して中小企業の利益は伸びず、逆に円安により輸入材コストが上昇して苦しくなってきた。この中小企業に給与所得者の70%以上が働いているゆえ、これが賃金低下の大きな要因である。

 さらにもう一つ、正社員を非正社員に置き換える「リストラ」も、賃金低下の大きな要因である。95年時では正社員が3779万人と非正社員1001万人であったが、14年末にはそれぞれ3277万人と1974万人となり、95年と比べて正社員が500万人ほど減少し、非正社員が約1000万人増えている。

 非正社員の給与は正社員と同じ働きでも、正社員の6割ほどであるゆえ、これらの結果、平均賃金は先述のとおり低下してきた。他方で非正社員を正社員に転換することが難しく、とりわけ中小企業は困難ゆえ、賃金低下が止まらなかった。

 


(二)大企業と中小企業との利益格差超拡大-----大手は連続で過去最高益

(1)中小企業の苦境-----35万社減

 景気を回復させるには以上の現状から、「賃上げ」及びとくに「非正社員」の給与を上げるべく、「同一価値労働は同一賃金」に向けた賃上げが不可欠である。しかし現在の産業構造で、果たしてそれが可能であろうか。日本の企業の99.7%が中小企業であり、非正社員は中小企業にも多く雇われているが、彼らの処遇を改善することが可能な中小企業は限られる。

 ところで09年に420万社あった中小零細企業は、12年385万社へと35万社も減少しているが、最近はこのような企業倒産はかなり減少している。それは既に生き残れない中小零細企業が35万社も倒産したからである。けれども現在でも中小企業の多くが、赤字経営もしくはギリギリの余裕のない経営であり、従業員の処遇改善に踏み出せない。また企業倒産や事業承継ができない中小企業も少なくはない。

 この表は資本金別の企業の営業利益合計を、その母集団で割ったところの「1社当たりの営業利益」である。その母集団の中には赤字企業も含まれているから、黒字企業の営業利益はもっと大きいが、この表で言えることは資本金5000万円以下の企業は利益が伸びていないのに対して、5000万円以上の企業はかなり利益を伸ばしている。とくに10億円以上の大企業の伸びは大きく、15年4~9月期は13年の同期より25%も伸ばして、1社当たり33億円となった。

(表2)13~15年半期ごとの資本金別1社当たり営業利益(単位 100万円)

資本金

10~19

20~49

50~99

100~999

1000以上

 13年4月~9月 7 29 134 2652
13年10月~14年3月 5 17 47 185 2739
14年4月~9月 4 7 36 140 2862
14年10月~15年3月 5 17 49 201 2831
15年4月~9月 3 10 48 159 3326

  出所:財務省「法人企業統計」各合より算出作成

 

(2)大企業益中心に経常利益バブル期の1.7倍

 このような大企業の利益によって、全体としての企業利益は14年度が2年連続で過去最高益を更新したが、15年度も更新する見通しである(表3)。けれども大企業の利益は円安により、海外で稼いだドルが円換算で大きく膨らむ「水膨れ利益」によるところも大きい。たとえばトヨタは1円の円安で営業利益400億円の上乗せとなる。14年度の自動車大手7社の「営業利益」の円安効果は5066億円であった。

 もっとも15年10~12月期から、新興諸国経済の不辰と資源価格安などにより、大企業の円安利益も減速している。それはともかく今までの結果、14年度の企業全体の「経常利益」は65.9兆円。これはバブルピークの89年度の38兆円の1.7倍強である。ところが中小零細企業の多くは、海外稼ぎはないゆえ「円安の水膨れ益」はない。逆に円安によって輸入原材料価格が高騰し、その分だけ利益が圧縮される。

(表3)経常利益指数(年換算、10年までの過去最高益を100とする指数)

  12年度 13年度 14年Ⅰ 15年Ⅰ
 全産業 93  111 131 123 105 135 131 152 114 133
製造業 91 91 89 92 90 127 88 120 90 100
非製造業 143 143 188 168 132 161 189 202 152 182

  *全産業と非製造業06年度=100、製造業07年度=100、 ローマ数字は四半期

 

 加えてもう一つ大企業の利益が伸びたのに反して、中小企業利益が伸びない要因がある。大手の親会社が下請け中小企業の納品価格を抑え込み、それゆえ中小企業にとっては「川上インフレ・川下デフレ」となっていることだ。あるいはスーパーのPBや、大手家電販売の過当競争などの結果、同様な中小企業利益の抑え込みとなっている。これが表2から読み取れよう。先の原材料価格の上昇など「円安によるコスト高」を、転嫁できている中小企業は3割程度だ(中小企業庁)。

(3)政府日銀のアベコベノミクス----金融超緩和で不動産バブル

 非製造業の15年の利益は表3のとおり極めて大きいが、これは不動産バブルが影響している。日銀の金融緩和策は、円安をもたらして大企業の「水膨れ益」と外国人旅行客を増加させたが、他方で「不動産バブル」を招来している。14年の上場企業およびJ-REITなどの不動産売買額の総額は5兆600億円に達し、前回のピークであった07年の5兆4000億円にちかい水準だ。超大型不動産の取引を除いた1000億円未満の不動産取引総額では、07年を超え過去最高の取引額を記録した。

 何故か。日銀の国債買いで大手金融機関に膨大なカネが渡り、かつ企業の内部留保も過去最高ゆえ、このカネは我が国内外の「ファンド」に対する超低金利融資となって、これが日本の不動産を買い占めたからだ。さらにはファンドがこの円をドルに換えたゆえ、異常な円安ともなった。

 国民の銀行預金は国債に回り、それが日銀の国債買いを経て大手行に戻り、次にそれがファンドに流入してバブルとなった。要するに日銀の超金融緩和策が異常な円安をもたらし、これが大企業の利益と次に見る強欲経営をプッシュし、他方で中小企業の「川上インフレ・川下デフレ」の困窮を助長し、同時に不動産バブルをもたらした。

 日銀の金融緩和策が一方で1ドル80円の異常な円高を修正し、また海外旅行者を呼び込む契機となった点は評価できるが、他方でとくに14年からの「超金融緩和」が1ドル120円の円安をもたらして、いま述べた事態を引き起こしている。したがって日銀の大量国債買い入れは、所得格差拡大のアベコベノミクスの片棒を担ぎ、総じて言うならば「無謀策」である。

 ちなみに日銀の国債保有は既に360兆円に達したと言うが、これは普通国債約791兆円(14年9月現在))の45%にも上り、やがて50%に達しよう。こうした事態にも拘らず日銀は、国債買い


(三)中小企業の団結-----オープンな談合が不可欠

 景気を回復させるには、これまで見てきたとおり「消費・格差不況」の克服、その為には賃上げと非正社員の処遇の改善が不可欠である。これらは過去最高益を上げている大企業では十分に可能であり、日本経済全体のために本格的に推進すべきである。

(表4)全産業の純利益と人件費総額および株式配当の指数(00年度=100)

 

06年度

07年度

10年度

11年度

12年度

13年度

14年度

 純利益 335  301 222 246 283 280 490
人件費 100 98 98 101 99 96 96
全配当金 312 270 200 229 269 278 325

  *人件費は従業員の給・賞与と福利厚生費

 

 しかし大手企業は逆に表4のとおり従業員の賃金を抑えて、利益を株式の配当金と自社株買いに回し、株価を吊り上げてきた。その結果ストック・オプションなどによる年収1億円以上の役職者が411人。最高報酬で見た「上位100社」の最高額平均は2億1700万円と未曾有の事態となっている。これは「強欲経営」というほかはない。猛省して利益を従業員に回し、出来るだけ非正社員を正社員にし、あるいは非正社員の処遇を改善し、さらに「中小企業泣かせ」を止めるべきだ。

 けれども大企業がこれを実行したとしても、給与生活者の70%以上が中小企業に雇われているからには、その効果はかなり限定的である。中小企業においても同様な賃上げと非正社員の処遇改善こそが、不況脱出のカギにほかならない。

 そのためには「中小企業の当然の収益が可能な産業構造」が不可欠だ。しかしこれは単純な市場原理主義だけでは達成されない。中小零細企業が結束して、大企業の不当な“中小企業泣かせ”を止めさせることが不可欠だ。

 そこで先ずは経営者の同業者組合が結束し、さらに労働組合とも協力し、大企業の不当経営と、これを放置している公取を相手に「社会に開かれた談合」を推進し、コストに見合った利益の獲得を目指すべきである。これこそがデフレ脱却の最大の手段であり、それが社会的正義というものである。