実態を見ない18年度予算編成  格差拡大・出生率低下・高齢化社会の急進


(一)どう対処するか-----出生率低下と格差社会問題


所得格差の拡大

 2016年度の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子家庭の平均年収(同居家族を含む)は348万円で、11年度より57万円増えた。しかし子供のいる全世帯平均年収の49.2%に止まる。ただし正社員の母親の比率が母子家庭全体の44.2%で、11年度より4.8ポイント増加している。父子家庭の平均年収は、同じく118万円増の573万円で、全世帯平均の81.0%の水準であった。

 

 また生活保護を受給する母子家庭は、11年度より3.2ポイント減の11.2%、父子家庭の受給は1.3ポイント増の9.3%である。これらから日本全体としては所得格差が縮小したとも見える。しかし所得格差の代表的指標のジニ係数は、08年が0.3758、14年も0.3759と殆ど変っていない。ちなみに次表のとおり日本の格差は、アメリカに次ぐ大きさであり、韓国よりも大きい。

 (表1)所得ジニ係数の国際比較

日本

アメリカ

カナダ

イギリス

ドイツ

フランス

オランダ

スェーデン

デンマーク

韓国

0.3759

0.394

0.322

0.358

0.292

0.294

0.283

0.281

0.254

0.302

 *カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、デンマークは13年、その他は14年の数値

 ひとり親世帯の年収が増えているにも拘らず、このように格差が縮小しないのは、「賃金が上がらない」もしくは「微増」なのに対して、高所得者の年収が大きく増えているからだ。2000年ころから多くの大手企業が、「役職者の手当を、自社株価の上昇と並行させる企業制度」を採用してきたから、年収1億円以上の大手企業の役職者が、最近では530人となった。

 

 これらも絡み17年の「金融資産保有世帯」のうち、資産3000万円以上保有世帯の割合は、15.6%と過去最高となっている。これとは逆に金融資産を保有しない世帯は30%超であり、一人世帯では50%近くが保有していない。

 

生活保護世帯および要介護高齢者の増加と出生率の低下

 こうした状況にも拘わらず安倍政権は、5年に1度の生活保護基準の見直しで、生活費に当たる分を来年から段階的に減らし、最終的に年間約160億円減らすと言う。しかし生活保護受給世帯は164万世帯と増えており、月平均の世帯数では17年9月は、51年の調査開始以降過去最高となった。

 

 これは高齢者の受給世帯が増えているからであり、とくに独居高齢者が592万人(15年)で、過去20年間で2.7倍となったが、それが生活保護受給世帯増に繋がっている。ちなみに65歳以上の人口は、17年7月現在で3501万人であるが、総人口に占める割合は、25年に30%に達する。

 

 こうした人口推移から当然に、介護保険サービスを受けられる「要介護・要支援の認定者」も増え、15年度に620万人に上り、過去15年間で2.4倍となっている。彼らは生活保護受給ばかりか、自力で生活できない。けれども65歳以上の高齢者のうち、子どもと同居している人は95年の54%から、15年には39%まで減少した。

 

 これらの格差および高齢者問題が深刻化しているが、他方で少子化傾向も強まっているから、老齢保障とりわけ医療保障の問題がいっそう厳しくなる。後述のとおり経済的な面から出産制限する夫婦も少なくない。これに対して、子供を社会全体で養育するという理念から、適切な社会制度の構築が焦眉の急である。17年の子供誕生数は、過去最低の約94万人であった。

 

 かつてフランスやスエーデンはじめヨーロッパ諸国では出生率の低下が大きな社会問題となったが、これら諸国も現在は、日本の出生率より高い。それは社会全体で子供を養教育する諸制度が構築され、婚外子でも嫡出子と同じように生活可能であるからだ。ちなみに次表のとおり、日本では婚外子は極めて少ないが、それはこうした制度がないからだ。

 (表2)婚外子(非嫡出子)の割合%(カッコ内は統計年)

フランス(12

スエーデン(14

デンマーク(14

オランダ(14

イギリス(12

アメリカ(15

ドイツ

14

イタリア(14

ギリシャ(14

日本

15

56.7

54.6

52.5

48.7

47.6

40.3

35.0

28.8

8.2

2.3

 *日本厚生労働省「人口動態統計」、国連人口統計、アメリカ国務省、その他諸国の統計より作成

 

 


(二)法人税減額、個人負担増----アベコベノミクス


 国と地方の累積財政赤字合計が1100兆円と膨大となっている中で、国家予算はこれらの難しい問題に、長期的な視点で対処しなければならない。18年度の当初予算は97兆円台後半と、6年連続で過去最大を更新する。全体の3分の1を占める医療・介護などの「社会保障費」が約33兆円、アメリカ忖度の「イージス・アショア」購入により「防衛費」も過去最高の5.2兆円など、一般歳出合計59兆円ほどとする。

 

 また国債の元利払いの23兆円半ば、地方交付税交付金15兆円台半ばを計上し、一般歳出と合わせて歳出合計は17年度の当初予算の97兆4547億円を超える。他方で歳入は税収を27年ぶりの高水準の59.1兆円を見込み、国債発行を34兆円に抑えている。

 

 この税収増は景気の回復から法人税が伸びると言う算段だが、果たしてどうか。たしかに円安で大手企業の経常利益が大きく伸びているが、それは海外事業の収益からの配当の要素が大きい。しかしこの配当金の95%は、二重課税を避けるために、日本では課税出来ない利益である。ちなみに過去最高益であった15年度も16年度も法人税収は減少し、16年度は税収の見込み違いで、1.7兆円の赤字国債の発行となった。

 

 けれども設備投資に積極的な企業や、賃上げをする企業の法人税を減税する。しかし企業の国内設備投資は、大手製造業をはじめとしてこの数年間で更新もしくは増設が済み、そろそろ限界である。また多くの中小企業は、本誌で何回か述べたとおり「円安による川上インフレ・川下デフレ」で厳しく、設備投資も賃上げも難しい。したがってこの課税変更は、被雇用者の75%を雇う中小企業の多くにとってメリットはない。

 

 これに対して個人に関する税負担に関しては、各種控除額の縮小もしくは廃止と、出国税その他の税創出もしくは税率引き上げなど疑問点が多い。消費不況下における個人負担の増加は、いっそう消費を抑え込む。要するに景気の実態を軽視した予算作成であり、他方で公的財政の累積借金1100兆円に対して、あまりに楽観的な予算である。

 

 ところで格差社会を背景に、収入面から出産制限をする夫婦も少なくない。これを減少させることは、先に触れた人口推移および社会保障問題からも重要なことである。したがって18年度予算において「3~5歳児の幼児教育・低所得世帯の高等教育の無償」に2兆円を振り向けていることは首肯できる。けれども生活保護給付額を減額する姿勢は、高齢化社会の実態を軽視している。

 

 また医療保障費に関しては「薬価の引き下げ」と「診療報酬の引き上げ」との組み合わせにより、医療保障費全体を抑制すると言う。しかし前者については首肯できるが、「診療報酬の引き上げ」はかなり疑問である。