危険なアメリカ追従の北朝鮮政策----対話による平和構築のほかに道はない-----

 

  本稿は「通信文化新報」(昭和20年2月初刷)の本年3月12日号に掲載するために、1か月ほど前に脱稿している。その後「アメリカと北朝鮮の対話」が決定されたが、その行方は定かではない。したがってこの草稿が、ある意味でいっそう重要となったと思われるので、若干手を加えて、ここに掲載する次第である。

 

イージス・アショアで防衛費最高

 累積財政赤字が国と地方の合計で1100兆円にも達しているのに、18年度の当初国家予算97兆円台後半と、6年連続過去最大を更新する。とくに防衛費は過去最高の5.2兆円だ。それは「敵基地攻撃能力」を有する陸上配備型迎撃ミサイル『イージス・アショア』を購入するからだが、これは高額かつ定価不明であり、かなりの額を吹っ掛けられよう。
 この購入は「トランプ政策に対する忖度」と「北朝鮮脅威の利用」だ。自民党の代表的なある議員から「前回の衆院選は北朝鮮のお陰で勝利」と思わず本音が出たが、防衛費増も「北朝鮮のお陰」か。現政権は北朝鮮からの危機を徒に煽り、安全保障関連法、総選挙、憲法論、防衛費その他多方面でこれを利用しているが、遺憾なことに北朝鮮危機を煽るメディアや、かつての北朝鮮の2度の裏切りを盾にする「専門家気取りの論説」も少なくない。

 防衛に関しては、北朝鮮を追い詰める「トランプ政策」こそ、危険である。次の北朝鮮との対話の結果で、トランプ大統領は何を決断するか予断できない。トランプ策にベッタリの安倍政権と無謀な「防衛省と外務省」の方針が危機に繋がる。

 とりわけアメリカが先導して石油を止める方向を打ち出したのは危険だ。これによって厳冬下の北朝鮮の「無辜の民の生活」を追い詰めたが、この「庶民いじめ」は正しくないし、核を放棄させる戦略としても逆効果だ。
 かつて日本も、アメリカによって石油ルートを遮断さたれた結果、“窮鼠ネコを噛む”の真珠湾攻撃に至った。トランプ・安倍同盟は、これと同じ状況を創り戦争を齎しかねない。

 

避けるべきチキン・レース

 ちなみに戦争は「チキン(鶏・臆病者)レース」だ。たとえば、やがて相手は方向転換すると思い、もしくは疑心暗鬼により、一方が全速力で車を走らせる。もう一方も同様な疑心暗鬼で真正面から全速力で車を走らせて、双方とも方向転換できずに正面衝突となるが如きだ。この“チキン・レース、窮鼠ネコ”により戦争の勃発となる。

 さて一方がある国を対象にして軍拡をすれば、その相手国もこれに対抗の軍拡をする。こうした軍拡競争から冷戦時代の国際政治学は、「パワー・ポリティクス論」つまり「軍事力の均衡による戦争回避・平和の維持」を説いたが、これは「キューバ危機」で無効なことが明白となった。

 あの危機はケネディとフルシチョフにより回避されたが、これは限界ぎりぎりの最後の数分間の奇跡であった。現在の政治家とりわけ日本とアメリカの指導的政治家に、このような知識も知恵も期待できない。要するに対話による平和構築以外に道はない。そのために北朝鮮に圧力をかけることもある程度必要だが、それが“窮鼠ネコ”となっては元も子もない。

 

アメリカの「諫争の友」たれ

 現在の国際情勢からして、とりわけアジアの問題に関してトランプ政権を諭すことが出来るのは、日本だけであるから、日本は「北朝鮮・アメリカ間のチキン・レース」の緩和役に徹すべきだ。一方で「アメリカに先制攻撃と極度の経済的圧力の抑制」を約束させるから、北朝鮮も「核兵器開発」を凍結せよと要請する。他方でアメリカに対しても、この旨を要請し、頑な態度を変えさせる。

 こうしてのみ当面の危機を回避できるが、またこれにより日本の懸案の「拉致問題解決」の糸口も見えてくる。オリンピックを機に当然にも南北朝鮮対話が再開されたが、これを「騙されるな」ではなく、日本もチャンスとして活用すべきだ。

 ちなみに争いには「闘争」「競争」に加えて、もう一つ「諌争」がある。これは相手が間違っている場合に、その過ちを正して、相手を引き上げるために誠心誠意、本気で忠告することだ。したがって古人は、この意味の争いを重視して「争友、争子、争臣あれば、人は誤ることなし」と説いた。

 安倍政権はこの逆で、アメリカ追従ゆえに、北朝鮮に日本の米軍基地つまり日本領土を攻撃させる恐れが出てくる。明治の元勲の副島種臣は、“正しきを踏みて亡ぶる国あらば 亡ぶるもよし 必ず亡びず” と詠ったが、要するに正しい道を踏めば「危機回避」は必定と言うことだ。日本はアメリカの「諌争の友」たれ!