どうする深刻なインフラの老朽化と少子高齢化・人口減少

 

(一)耐用年数を超える橋梁・トンネル・水道管・高速道路

  全国約77万カ所の橋やトンネルなど「道路インフラ」のうち、約8万カ所が、ひび割れや腐敗などで5年以内に修繕が必要だという(国土交通省調査)。これらのうち約9割が、都道府県や市町村の管理下にあり、「財源不足」で修理費用が捻出できないか、または地元住民の反対や「人手不足」などで、点検や補修ができていない。

 

 老朽化の目安の建築後50年以上の橋やトンネルは、橋が19年度の27%から29年度には52%へ、トンネルは同じく21%から35%に増えるという。いうまでもなく地方自治体は、早急にこれらに手を打たなければならないが、先ずは財源の見通しがつかないなどで、18年度末で修繕工事に着手していないのは、橋が77.8%の5万3694カ所、トンネルも約63.7%の2812カ所である。

 

 一般にわが国のインフラは、1960年代~70年代の東京オリンピックと高度経済成長期の短期間に急激に創設されたが、今やこれらは4050年経過している。とくに水道管の多くが1955年~65年代に敷設され、総延長は地球16.5周分の約66万キロだが、これらは耐用年数の40年を超えている。したがって例えば13年度だけでも25000件以上の「基幹管路(導水管、送水管、排水本管)」が破損している。

 

 また水道管の耐震化も遅れており、これらすべてを勘案する「更新費用」は、2050年迄に59兆円だという。高速道路、学校、公営住宅、下水道、トンネルなど殆どのインフラが、これらの場合と同じであり、すでに多くが耐用年数を超えている。

 

 (二)インフラ整備の地方財源不足------空き家849万戸と空き地1.4倍へ

  他方で全国の「空き家」は、18年時点で849万戸、全住宅に占める割合は13.6%である。また「空き地」は13年時点で981平方キロメートルと、10年前の1.4倍となった。このような山林地や古い住宅が放置されると、土砂崩れや家屋倒壊などの問題が生じるが、最近の「温暖化・異常気象」に拠る豪雨や地震その他の災害と相まって、これは極めて深刻だ。また3大都市(東京、名古屋、大阪)を除く地方圏の「住宅地公示価格」は、したがって18年まで26年連続で下落してきた(国土交通省、総務省調査)。

 

  この空き家に関しては、相続人との連絡困難や「相続放棄」などが直接的要因であるが、根源的には「人口の自然減」問題である。2019年に生まれた子供は86.4万人で、統計を取り始めて初めて90万人割れとなったが、20年も90万人を割り、他方で死亡者数推定数は137.6万人、したがって人口自然減は50万人を超える(51.2万人、厚生労働省推定)。人口のこのような自然減は13年連続である。

 

  こうした人口減少とりわけ「地方人口の減少」が、耐用年数を超えるインフラの整備を困難にしている。たとえば減少住民の水道料金だけでは、水道管の補修整備は不可能だが、このような「利用者も負担するインフラ」ばかりでなく、もっぱら地方自治体が管理するインフラの殆どが、地方税収の資金不足で補修できない。地方の人口不足や人口流出で、地方税収が減少してきたからだ。もっとも次表のとおり最近2年間は「地方税収」が過去最高を更新した。それでも地方インフラ整備に回せる資金は限られている。 

 

(表1)地方税収・国税収・合計税収(単位兆円、1000億未満切り捨て)

年度

2007

2009

2011

2013

2015

2017

2018

地方税収

国税収

合計税収

40.2

52.6

92.9

35.1

40.2

75.4

34.1

45.1

79.3

35.3

51.2

86.6

39.0

59.9

99.0

40.9

58.8

99.7

41.9

60.4

102.3

 

 かつては「郵政マネー」が、これらのインフラ整備に役立てられたが、無謀な民営化によって、それが難しくなっており、「ゆうちょ銀行」も「かんぽ生命保険」も海外運用の割合を増やしている。したがって現在の厳しい

 インフラ危機から抜け出すためには、国内のインフラ事業に限定した「インフラ債券」の発行や、新たな「財政投融資資」の仕組みが必要だ。政策の怠慢や無策はもはや限界である。

 

ただし、かつての「財投」に関しては「政官業の癒着」もかなり散見されたゆえ、このマイナスを克服する工夫が必要である。ちなみに郵政事業の民営化は、ニュージーランドやドイツの例をはじめとして、殆どが失敗結果となった。日本の最近の「かんぽ保険問題」の根も、郵政事業の民営化に拠る「契約主義競争・ノルマ経営」にある。小泉政権以来の「官から民へ」のスローガンは誤りであり、正しくは「官も民も公へ」でなければならない。

 

(三)近代文明と少子化----スウェーデンとフランスは婚外子50%以上で克服

  深刻なインフラ問題の背景には「少子高齢化」とりわけ「少子化」がある。人口減少とくに地方の人口減少ゆえに、老朽化したインフラを補修整備することができない。したがって「少子化」を克服することが重要だ。この点を先進諸国の例で考察すると、先進諸国の「合計特殊出生率」(1549歳までに女性が産む子供の数の平均)は、1960年代までは、 全ての国で2.0以上であり、人口維持可能な水準であった。しかしその後1970年から1980年頃にかけて、全体として低下傾向となった。

 

その背景には、子供の「養育コスト」の増大、「結婚・出産に対する価値観の変化」「避妊の普及」等があったと指摘されている。しかし1990年頃からは、合計特殊出生率が回復する 国もみられるようになってきている。とくにフランスやスウェーデンでは、出生率が1.51.6台まで低下した後、回復し始めて直近ではフランスが1.922015年)、スウェーデンが1.852015年)と なった。

 

 これらの国の家族政策の特徴は、フランスでは家族手当などの経済的支援が中心であったが、1990年代以降は「保育の充実」へとシフトし、その後さらに「仕事と出産・子育てとの両立」の環境整備をしてきた。スウェー デンも比較的早い時期から、この「両立支援」の施策が進められた。これら両国の政策の特徴は「子供を社会で育てる」という観点から、結婚しなくても子育てが可能となる諸施策である。ちなみに婚外子の割合はフランスが50%、スウェーデンは55%に達している。

 

これらに対してドイツでは、依然として経済的支援が中心となっていた。たとえば少子化が問題となり始めた80年代の中頃は「キンダー・ゲルト(子供養育手当)」を、かなり手厚くしている。年収500万円以下の家庭に対しては、子供1人の場合は1カ月6000円、2人の場合は1万8000円、3人では4万4000円、4人では7万3000円と、一人当たりの支給額が増加していく。

 

これはかなり手厚い養育費手当であるから、後に手当水準が下げられた。しかしドイツの出生率はフランスや、スウェーデンよりかなり低いままで、日本の合計特殊出生率の1.46とほとんど同程度である。したがってドイツも近年は「仕事と子育ての両立支援」へと転換を図り、育児休業などを手厚くしている。

 

(四)日本の課題-----少子化、労働力不足、失業増大の危惧および生態系維持

  さて日本は先進諸国の中で出生率が最も低く、それゆえ人口減少も年間50万人を超えてきた。これは鳥取県の全人口に匹敵する。したがって厚生労働省は「保育施設」の拡充その他の施策を推進して、少子化を克服しようとしているが、「施設数」も「保育士」も十分でなく、施設に入れない「待機児童」が少なくない。これらネックの大きな要因は、保育士の労働時間や賃金などの処遇問題に手が付けられていないことだ。

 

また日本の「子供の貧困率」は13.9%(2015年)であるが、ひとり親世帯の貧困率は50.8%である。それゆえ政府は、婚外子をも含む「ひとり親」の負担を軽減する「手当」の増額をもくろみ、そうした法改正を提出する。

 

いずれにせよ「少子化」が「労働力不足」につながっており、厚生労働省は「少子化」を克服する施策ばかりでなく、労働力不足に対処するために、企業に対して次のような「選択的努力義務を課す」政策をも導入する。①定年をなくす、②定年を伸ばす、③定年後に再雇用する継続雇用、④別の会社への再就職を応援する、⑤フリーランスとして独立して働くことを支援する、⑥起業を助ける、⑦社会貢献活動への参加を助ける。

 

これらにより日本でもフランスやスウェーデンのように「少子高齢化」を克服できるとしても、これら諸国と同様に15年余りかかるであろう。そこで労働力不足に対して、外国人労働者にも期待している。ところが実はアジア諸国も厳しい「少子化」が進んでいる。合計特殊出生率はタイが1.42013年)、シンガポール1.242015年)、韓国 1.242015年)、香港が1.202015年)、台湾 1.182015年)と我が国の1.462015年) を下回る水準となっている。

このような少子化の原因も、先述の先進諸国と同じく「養育コスト」の増大、「結婚・出産に対する価値観の変化」「避妊や堕胎の普及」等があり、要するに、これは「近代文明」がある到達点に達すると、必然的に生じる現象と言えよう。したがって日本の労働力不足を、外国人労働力に頼ることには、この点でも限界がある。

  しかし労働力問題には、これと正反対のリスクもある。それは通常の仕事が今後、AIによって代わられる可能性である。OECD(経済協力開発機構)の推計によると、先進諸国の平均で、労働人口の1割がAIに代替されるという。日本では労働人口の15%、約1000万人が代替されるという。

 

 ここに近代文明とりわけ日本社会は難しい方程式に遭遇している。「社会インフラの安全性確保と充実」「少子化と労働人口減少の克服」「1000万人失業の回避」という3次元方程式を如何に解くかである。まだどこにも正解は出ていないが、これに「生態系の維持」が加わって、この4次元方程式を解かねばならない。