「コロナ不況」の陰影 

(1)テレワーク在宅勤務の明暗

コロナ禍に拠る「緊急事態宣言」の導入から、205月にかけて「テレワークの在宅勤務」を導入する企業が増えた。しかし20525日に同宣言が解除されると、7月にかけてテレワークは急激に減少した。宣言が導入された4月の初めには、テレワークを導入した企業は、平均で週2.12日のテレワークであったが、宣言解除後は同0.75日となた。要するにテレワークは、一般的には緊急避難的な採用に過ぎなかったと言えよう。

 

 ただしテレワークが可能な業種業態と、適さない業種とにより、かなり差がある。もともと「建設業」「サービス業」「技能・労務職」などは、テレワークが難しい。これに対してとくに「情報通信」などはテレワークが可能であるゆえ、情報通信関連では、週3日以上のテレワークが導入された。これらの業種では、緊急事態宣言の前から、働き方のオプションとして導入され、もしくは想定されていた。

 

 ところがアメリカでは、一般的にはテレワークに適していると考えられる「IT関連」などの企業が、コロナ前にテレワークを廃止し、もしくはテレワークに消極的となった。IBMやヤフーはテレワークを廃止し、グーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフトは消極的で、逆に無料の社員食堂、車の点検サービス、多様なサークル活動など、社員が出社したくなるオフィス作りをしてきた。社員同士が面と向かい合わない「孤立・孤独」に由来する「仕事の非効率性」や「精神疾患」などを、問題視しているからだ。

 

ちなみに日本でも「コロナ在宅勤務社員」の6割が「効率の低下」を表明し、効率上昇という社員は3割に過ぎない(日本生産性本部205月調査)。しかし他方でテレワークの導入から「WEB会議」が進んだ企業もある。これらの企業では「1週間当たりのテレワーク回数の上限」を廃止し、「通勤手当」に替えて「テレワーク手当」を出し、さらには「単身赴任不要」に向けた企業もあるという。

 

ところで政府はコロナ感染拡大の防止策として「テレワーク」や「時差通勤」を推奨しているが、労組はテレワークにより労働時間が拡大することを懸念している。さらに企業はテレワークの導入により、社員の「年休取得割合」が低下したという。同時にテレワークの導入で、いっそうの「アウトプット重視の人事管理・経営」となるという。このように様々な視点や現実があるが、テレワークを導入した企業は、20年4月時点で全体の5.6%に過ぎず、それも首都圏の企業に集中した。

 

(2)企業利益の激落------「厳しい中小企業」対「大手製造業の回復」

 企業の213月決算(金融・保険を除く20年度決算)の「経常利益」は、「全産業」が前年度比11.4%減、「製造業」は同0.3%減、「非製造業」が同16.8%減であった。製造業のマイナス率が減少したのは、中国とアメリカの景気回復によって、主として自動車および半導体関連の輸出が伸びたことの影響が大きい。ちなみに214月の自動車8社の「世界生産」は、前年同月比126%増となった。ただしこの生産水準でも、194月と比べると1割以上の低水準だ。

  これはコロナ不況の厳しさを物語るが、この不況のさらに問題なのは、「中小企業」および「非製造業」に対する皺寄せが大きいことだ。213月期決算を「大手企業」に限ると、「全産業」の「純利益」は前年度比28.9%増、「製造業」は36.1%増と大幅に回復している。これに対して「非製造業」も21.9%増であるが、その中の「ソフトバンク・グループの利益4.9兆円」を除くとマイナス36.4%、同じく全産業もマイナス2.2%と厳しい(表1)。

 

(表1)東証1部上場企業(97%発表分)213月期決算

*単位兆円、カッコ内前年度比増減率(%)     *出所「朝日新聞」518日朝刊

 

売上高

営業利益

純利益

全産業(金融業を除く)

全産業(ソフトバンクGを除く)

製造業

非製造業

非製造業(ソフトバンクGを除く)

456-7.6

451-7.6

290-8.0

166-6.9

160-6.8

25-14.1

25-14.1

162.9

 8(-35.3

 8-35.3

24(  28.9

19- 2.2

12(  36.1

11(  21.9

 6- 36.

 

 このように大手上場企業は、製造業を中心に景気回復の傾向だが、これら大手の「今年中の希望退職募集」が、東京商工リサーチ調査の216月初め時点で、50社の1万225人に達した。アパレル・繊維が8社、電気機器7社、外食4社、観光・サービス、鉄道をはじめ運送業などの募集も多い。このペースでいけば、募集企業数はリーマンショック時の09年以来の3ケタとなる可能性もあるという。

 

この募集は19年が35社で11351人、20年はコロナ禍ゆえに93社の1万8635人であった。このように昨年の募集拡大にもかかわらず、今年はさらに拡大する様子である。要するに利益回復しつつある大手企業も、今後の見通しが難しいからであろう。

 

(3)弱い「コロナ雇用危機産業対策」----非正社員の低賃金と「行政の機能不全」

 深刻な「コロナ不況」および「緊急事態宣言による巣ごもり生活」によって、「非製造業」の収益がとくに厳しくなり、それゆえこれらの産業の多くが「雇用危機」に直面している。これは世界的な傾向である。しかし、この危機に直面する「芸術・娯楽業」「宿泊・飲食業」「卸売り・小売り業」に従事する従業員の割合(全被雇用者数に対する当該従業員数の割合)を検討すると、表2のとおり日本の雇用危機が相対的に大きいことが分かる。

 

 

(表2)雇用危機に直面する産業に従事する就業者比率(2018年、%)

 

芸術・娯楽

宿泊・飲食

卸売り・小売

日本

ドイツ

イギリス

フランス

1.2

1.3

2.7

1.8

6.2

3.8

5.4

3.9

16.5

13.9

12.9

12.7

24.0

19.0

20.9

18.4

(資料)労働政策研究・研修機構『データッブック国際比較2019

 

 では各国政府は、従業員の「雇用維持」および「従業員援助」の施策として、どのような手を打っているか。日本は第一に、休業手当を支払って「休業を実施する事業主」に対し「休業手当の一部」を助成する(雇用調整助成金)。第二に、休業させられて「休業手当を受けられなかった休業者」に対して、休業前の1日当たり賃金の8割(上限は1日当たり1万1000円)を支給する(休業支援金)。

 

  ドイツは「休業による賃金減少分」の6080%を支給する(操業短縮手当)。イギリスは「労働者の休業部分の賃金」の8割を雇用主に支給する(雇用維持スキーム)。フランスは休業させた場合、雇用主は「賃金の70%」を支払い、政府は同額を雇用主に支払う(部分的失業策)。これらの施策の財政支出額(2012月末までの支出、同時点の為替レートの円換算額)は、次のとおりである。

  

 (表3)雇用維持政策の財政支出  

日本

ドイツ

イギリス

フランス

3.083兆円

2.81兆円

6.49兆円

3.44兆円

(資料)労働政策研究・研修機構『データで見るコロナの規制』

 

日本は表2のとおり「雇用危機に直面する従業員比率」が高いのに、表3のとおり助成金額が少ない。その大きな要因は、日本の賃金水準全般が低いこと、とりわけ非正社員の賃金が低いことに拠る。日本の非正社員の賃金は、正社員の賃金の60.4%(18年)である。これに対して14年時点でフランスは86.6%、スエーデン82.2%、ドイツ72.1であった。これに「行政の機能不全」による支給遅延もあり、昨年末までの支給額(財政支出額)が欧米諸国に比して少なくなった。

 

(4)She-cessionと女性の困窮

 コロナ禍によって「厳しい雇用危機」に直面する業種業態のうち、とりわけ「宿泊・飲食」「生活・娯楽」などのサービス業には、女性が多く雇用されている。それゆえコロナ禍により男性より女性の被雇用者の減少率が大きくなった。207月までの7か月間で、女性雇用が87万人減少し、この減少率は3.2%であった。これに対して男性雇用の減少率は、0.8%に過ぎなかった。

 

 ちなみに一般の不況では、男性雇用減少率の方が大きいのが常である。今回はアメリカでも同じ7か月間の女性雇用の減少率が10.6%と、男性の同減少率7.3%をはるかに超えている。こうした点から、今回の不況はリセッション(recession)でなく、(She-cession)ともいわれる。

 

 コロナ禍の「クラスター対策」として、保育・幼稚園の休園や小中学校が休校となったゆえ、多くの女性が「仕事か家庭か」の二者択一に迫られた。また先の業種業態では、テレワークの導入も難しいので、この二者択一はいっそう大きくなった。

 

 この結果、女性の解雇が多くなっているが、これにより家計は苦しくなった。一般に「世帯総収入」のうち「妻の収入が占める割合」は、妻が正社員の場合は4割、非正社員では2割、未婚もしくは離婚女性の場合は7割である(ゆうちょ財団2018年全国調査)。したがって女性の解雇や休職で困窮する家計が増大している。

 

 

 女性収入が1割減少した家計では、5世帯に1世帯が「食費」を切り詰め、1割弱が「公共料金」を滞納しているという。これは表4の「世帯の預貯金額」の趨勢からして、当然だと言えよう。現役世代では「預貯金無し」「13か月分生計費相当の預貯金保有」「4~6か月分の同預貯金保有」のいずれかの世帯が、現役世帯全体の31.4%を占める。子育て世帯ではこれが31.5%に達している。さらに「女性世帯主の現役世帯」では、同世帯の53.4%が同様な金融資産保有状態である。

 

    (表4)2人以上世帯の金融資産保有割合(%)  

 

現役世帯

高齢者世帯

子育て世帯

女性世帯主現役世帯

預貯金無し

1~3か月の生計費相当

4~6か月の生計費相当

これらの合計

16.5

7.5

7.4

31.4

13.6

3.0

3.5

20.1

16.4

7.1

8.0

31.5

37.9

10.3

5.2

53.4

       (資料)ゆうちょ財団「第3回(2018)家計と貯蓄に関するデータ」

 

 

ところで20年の「自殺者数」は、前年比4.5%増の21081人で、このうち女性は15.4%増の7062人であった。自殺者が1998年から14年間も、毎年3万人を越えていたが、これは今日までに減少している。しかしコロナ禍の女性の自殺者の増加は問題である。女性の自殺者は214月が前年同月比28.9%増、5月も同21.1%増とショッキングな事態となった。経済的困窮からの自殺者が多いであろう。コロナ不況からの脱出はもとより、30年も続いている日本経済の不況脱出の重要なカギの一つが、女性の雇用とりわけ非正規雇用問題である。

 

 (本論は、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の『データで見るコロナの軌跡』おおよび『新型コロナウイルス感染拡大の雇用・就業への影響』を参考に、『ロゴス通信』に掲載した拙文である。)