コロナ禍経済の実態と暗雲----大量失業を回避できるか!

欧米におけるスタートアップ企業による雇用

スタ―トアップ企業は、「急成長の可能性がある革新的事業に取り組む企業」だといえるが、ドイツでは「国内のスタートアップ企業」が、415000人の雇用を創出しているとの調査結果が出た(ドイツのコンサルティング企業「ローランド・ベルガー Roland Berger」の調査)。調査対象はドイツ国内の技術志向のスタートアップ企業で、

12004年以降に設立され、(2)国内に本社を有し、(3)従業員数が2人以上、

の条件を満たす約11300社である。

 

これによると、20年時点で国内スタートアップ企業に勤務する人は415000人。18年は267000人、19年は341000人と増加傾向にある。消費財分野で76000人、輸送・旅行分野で46000人、メディア・マーケティング分野で45000人だが、間接的な雇用創出も含めると、スタートアップ企業のビジネスは2020年に全体で約160万人の雇用を創出したという。

 

しかし米国、イスラエル、英国などに比べ、ドイツではスタートアップ企業に勤務する人の割合が低いという。具体的には、ドイツでは被雇用者全体(4470万人)に占める「スタートアップ企業における被雇用者割合」は0.9%で、米国の8.4%、イスラエル5.4%、英国2.2%などに比べて低い割合にとどまる。

 

その上で、ドイツのスタートアップ企業の発展が英国水準まで高まれば、2030年に974000人、米国水準まで高まれば3733000人の雇用が見込めるとした。これを受けてドイツ連邦スタートアップ協会の会長は、「今回の調査でスタートアップ企業が国内雇用の創出に貢献していることが明らかになった。219月の総選挙後に発足する新政権は、スタートアップ企業支援を最優先課題の1つとして取り組むべき」とコメントしている。

 

日本ではスタートアップ企業創設が遅れ、またこれに関する危うい投資も指摘される。しかし「スタートアップ企業」の行方と内容が、今後の主要課題の一つであることは間違いない。それは、次のような「コロナ禍の日本経済の厳しい実態」を見るまでもなく言えよう。

 

コロナ倒産と経常利益がともに激増の矛盾

2011年からの10年間の「東日本大震災関連の倒産」の件数が1979社、これに対して「新型コロナウイルス関連の倒産」は、20年2月から21年8月の間だけで1973社も。その8割が従業員10人未満の企業で、飲食業が363社と最多。続いて宿泊業、娯楽業、アパレル業関連。いずれも政府のコロナ営業・自粛対策の影響が大きい。

 

他方で20年の企業倒産全体の件数は7773社で、30年ぶりに8000社を割り込み、過去50年で4番目の少なさである。コロナで「売り上げが一定以上減少した中小企業および個人事業」に対する「無利子・無担保の融資(ゼロゼロ融資)策」の効果だ。また1~6月の輸出は前年同期比23.2%増の約40兆円で、コロナ拡大前の19年上期水準を上回った。

 

これらから21年4~6月の金融・保険業を除く全産業の「売上高」は、前年同期比10.4%増と2年ぶりの増加。また「経常利益」も93.9%増の24兆円超で、これは1954年4~6月期以降で2番目の同期利益だ。とくに中国やアメリカ経済の好調さから、国内外で自動車販売が増加したことを反映している。

 

しかしゼロゼロ融資額は、すでに政府系と民間の融資機関との合計で25兆円。さらに直近の中小企業の債務残高は、10年ぶりの高水準の50兆円超となり、政府の見通し額を約27兆円も上回っている。

 

流通・生産・原材料の世界的な隘路

加えて7月以降は生産・出荷ともに低下し、今後の下振れリスクが危惧される。先ず中国でコロナ感染が広まり、港の閉鎖や空港の作業員不足など、物流網の混乱とコンテナ船の運賃高騰が止まらない。同様に空輸の運賃も高騰した。第二に自動車各社では半導体をはじめとする部品不足で、多くの工場が休止に追い込まれ、トヨタは一時、国内のすべての工場で生産停止となった。これは自動車産業以外へ波及する。

 

また感染拡大が深刻なアジアでも、部品工場の操業が難しくなっている。ベトナムでもコロナ・デルタ株の広がりゆえに、感染封じ込めの「工場隔離」策が導入され、日本企業も大打撃。したがって生産拠点をタイや中国に移す企業も出ている。けれどもタイの感染も深刻となり、夜間外出規制、商業施設や公共交通機関の営業時間短縮など厳しい規制から、景気が低迷し、反政府デモが各地で活発化している。

 

他方で中国は、オーストラリアとの貿易摩擦から「石炭輸入」が減少し、石炭価格が6割も上昇した。それゆえ石炭火力発電の発電を抑制しているが、これにはCO2排出量の削減目標も影響している。中国政府はCO2排出量を30年までに減少に転じ、60年までに実質ゼロにする目標を打ち出した。

 

これらから電力不足ゆえ、電力使用制限と停電さらには断水となった地域もある。したがって製造業関連の日系企業の幾つかが、操業停止や減産に追い込まれている。また中国の消費も7月までに、「コロナ禍による落ち込みの反動増」も終わり、とりわけ自動車販売台数は、5月以降前年割れが続く。

 

また日本も同様で、巣ごもり需要や「特別定額給付金」などによって「白物家電」販売が伸びたが、これが一巡して2149月の白物家電出荷は前年同月比3.5%の減少。こうした状況に加え、日本では鉄鉱石の高騰で鋼材が値上がりして、車用鋼材が大幅に引き上げられた。これらから日本の大手自動車メーカーの世界減産数は、9月までに170万台で、20年生産総数の7%相当の減産だ。。

 

大量失業を回避できるか

20年の企業の採用人口は710万人で「入職率」は13.9%であったが、退職人口も727万人で「離職率」は14.2%と、9年ぶりに離職率が入職率を上回った。他方OECD(経済協力開発機構)の推計によると、先進諸国平均で労働人口の10%の5.4億人が、日本では15%の約1000万人がAIによって代替される。また「世界経済フォーラム」は、今後5年で8500万人が失職するという。

 

ちなみにこの表のとおり、全雇用者は19年より52万人減少し、とくに女性の「非正規雇用者」は67万人も減少し、コロナ禍が女性の非正規雇用にしわ寄せされている。また女性の非正規雇用の割合は55%ほどだが、全雇用の同割合は19年が38.3%、2037.2%、2136.7%。男性の同割合は1922.8%、2022.2%、2121.7%。このような不正規雇用割合の減少は、コロナ禍によって非正規雇用がカットされたからである。

 雇用形態別役員を除く雇用者数(万人) *カッコ内はそれぞれの全雇用者に対する割合(%)

2021年は16月期の平均     *総務省『労働力調査』より算出作成

 

全雇用

女性雇用

 

役員を除く全雇用者

正規職員・従業員

非正規職員・従業員

役員を除く全雇用者

正規職員・従業員

非正規職員・従業員

2019

2020

2021

5660

5620

5608

3494

3529

3551

216538.3

209037.2

205636.7

2635

2619

2626

1160

1193

1217

147556.0

142554.4

140853.6

 

AIによって新たな雇用も生まれるが、それにしても厳しい見通しだ。そればかりでなく新技術や温暖化対策によっても、雇用問題が深刻となる。日本自動車工業会の会長は、自動車産業においても、現在の雇用550万人の大半が失われると発表して、政府の「温暖化対策」の見とおしを非難した。政府は35年までに乗用車の国内販売を、全て電動車にする目標を掲げるが、同会長は「EVとFCVの生産台数」は30年時点でも200万台に満たないと言う。

 

現在の国内生産は1000万台で、その半分を輸出している。これらから政府の「温暖化策」により800万台以上の生産台数が失われ、雇用カットだと言う。ちなみにEUの「欧州委員会」は、ガソリン車を35年に事実上禁止する方針を出したが、日本政府の見通しもこれに合わせた。厳しい問題ではあるが、EUと同様に技能訓練策の充実その他の政策により、温暖化対策と産業の維持との両立を工夫する他はない。

 

その要は「時短・ワークシェアリング」のいっそうの推進である。日本の年間総労働時間も、次第に短縮され1680時間となったが、これは非正社員を含む労働時間である。正社員に限ると、なお2000時間ほどで、これはドイツの1.47倍にも達している。

 

1人当たり平均年間総労働時間  *カッコ内は正社員の労働時間

 

日本

アメリカ

カナダ

イギリス

ドイツ

フランス

オランダ

1990

2000

2010

2018

2031

1821

17332008

16801998

1833

1832

1733

1786

1797

1787

1715

1708

1621

1569

1506

1538

1578

1452

1390

1363

1645

1558

1540

1520

1454

1464

1420

1433

 

労働政策研究・研修機構『国際労働比較2019年データブック』および「経団連19年調査資料」より作成

  

 

しかもこの長労働時間ゆえに、日本の「労働生産性」はOECD加盟国36か国中の21位、先進諸国平均の82%にとどまっている。また就業者1人当たりの年間付加価値額(2018年)も、OECD平均9万8921ドル(約1000万円)に対して、日本は8万1258ドル(約824万円)と低い。これらにより明らかなとおり、依然として「時短・ワークシェアリング」が「雇用と産業の維持」のための極めて重要な方策だと言える。