日本のアベコベ経済と今後の世界景気

日本の苦境と世界経済の低迷

20年度の実質GDP成長率は、マイナス4.5%と大きく落ち込み、21年度は僅かに0.1%成長、だが2213月も前年同期比年率0.5%減と低迷が続く。コロナ禍およびウクライナ戦の影響で、石油や原材料や食材の輸入価格の上昇、それに「円安」が加わり、この上昇に拍車をかけた。それゆえ個人消費が伸び悩み、また貿易赤字も加わり、景気低迷から抜け出せない。

 

4月の国内企業物価指数(速報値、2015年平均=100)は113.5と、前年同月比で10.0%上昇し、56月も9%超と上昇して、前年の水準を上回るのは16カ月連続。石油・石炭製品など資源関連を中心に幅広い品目で価格が上昇し、第2次石油危機の影響が残る198012月(10.4%)以来約41年ぶりに2ケタの伸びだ。他方で1ドル133134円台の円安ゆえ、6月の輸入物価は前年同月比46.3%にも達し、消費者物価も4月が2.5%、52.1%、62.4%増と7年ぶりに前年同月比2%を超えた。そして7月は1ドル138円へ。

 

 このような世界情勢に拠る経済の低迷は、日本ばかりではない。日米欧とも13月の成長率が低下し、46月期以降の見通しも下方修正とインフレ高進が相次ぐ。加えてアメリカの「利上げ」が金融市場の火種となり、中国の「ゼロコロナ政策」も供給網の混乱要因だ。13月期のアメリカの実質GDP成長率は、対前期比年率換算で1.4%減と7四半期ぶりのマイナスとなった。またユーロ圏の同成長率も、同0.8%増と鈍化した。

 

世界経済の火種------アメリカ経済も中国経済も

 アメリカ債券市場で長期金利の指標の「10年物国債利回り」が上昇(価格は下落)し、一時201812月以来35カ月ぶりに3%台を付けた。米連邦準備理事会(FRB)による急ピッチな金融引き締め路線への警戒が広がり、米国債売りが加速したからだ。したがって米景気の先行き不安から株価も不安定な低下傾向である。

 

518日にはアメリカ株式ダウ工業株30種平均が、前日比で1164ドル52セント(3.6%)安の31490ドル07セントと、急落して年初来安値を更新した。また消費者物価は5月に前年同期比8.6%、6月は同9.1%上昇で、約40年半ぶりの値上がり水準の更新となった。したがってインフレ・金融引き締めに拠る景気悪化の推測から、8月に入るとドルが売られて「ドル安・円高」の局面も出た。

 

他方で中國の13月期の実質GDP成長率も、前年同期比4.8%、46月期0.4%で減速傾向が顕著である。4月の「製造業購買担当者景気指数」が47.4549.63カ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。新型コロナウイルスの感染が広がった最大経済都市の上海市が事実上の都市封鎖(ロックダウン)に追い込まれ、物流の混乱などで景況感が一段と悪化した。

 

中国の4月の輸出(ドル建て)も、前年同月比3.9%増の2736億ドル(約36兆円)で、206月以来の低い伸び。上海市が新型コロナウイルスへの対応でロックダウンに追い込まれた影響が出た。もっとも5月は16.9%増と急拡大。しかし「世銀見通し」ではこれら多くの要因から、世界のGDP成長率は21年の5.7%から22年は2.9%へと減速するという。

 

日本経済-----経済成長至上主義による深刻な「所得格差・消費不況」

 今後の景気は、このように世界的に不安定だが、日本以外の経済は、これまで順調に伸びてきたから、この不況も日本ほど深刻ではない。19年および21年の「実質GDP指数(2010年=100)」は、アメリカが150153、イギリス140144、ドイツ136139、中国は239278である。これに対して日本は110および107といずれよりもかなり低い。また21年のGDPは、日本以外は 19年より伸びている。

 

(表1)国内総生産(GDO)・鉱工業生産・民間消費の指数(2010年度=100)推移の国際比較

 

 基準年次

アメリカ

19    20    21

イギリス

19   20  21

ドイツ

19   20    21

日本

19   20    21

GDP

生産指数

小売り売上げ

150   142   153

112   104   109

144   145   173

140  134  144

102   93   98

122  110   116

136   131  139

113   104  107

115   108  108

110 106  107

99  89   95

106 100  102

 

ちなみに19年と21年のアジアNIESのGDP指数(2015年=100)は、韓国111115、台湾110124、香港10889、シンガポー110とル112であるが、先進諸国と同様に2010年=100の指数では、これらはもっと大きい数値となろう。また香港以外の21年のGDPも、19年より伸びているから、いっそうの上昇を期待できよう。この指数でも、香港以外は日本より高い。

(表2)アジアNIES諸国の国内総生産(GDP)

    ・製造業生産および輸出額(通関ベース) の指数(2015年=100

 

 年

韓国

19    20    21

台湾

19   20  21

香港

19   20   21

シンガポール

19    20    21

GDP

生産指数

輸出額

111   101 115

116  117 124

103   97 122 

110  114 124

107  109 125

153  121 156

108  102  89

102   96  91

109  109 137

110  105  12

120  129 157

109  105 128

 

ではなぜ日本だけが景気低迷が30年近くも続いてきたか。先進諸国は70年中葉までに「生産力成熟・消費飽和」で、従来のような経済成長は不可能となったゆえ、「時短」をはじめ、これに対応の経済社会を目指してきた。ところがアメリカと日本は依然として「経済成長至上主義」を転換してこなかった。

 

その結果がアメリカの軍事産業シフト。日本では「輸出至上主義」による「大手企業の中小企業泣かせ」「長時間労働」「非正規雇用の激増」「所得格差の拡大」「中小企業の激減」「財政悪化」「日銀のアベコベ策」などにより、「所得格差・消費不況」が持続している。それにも拘らず、またコロナ禍にも拘わらず、「東証1部大企業の223月期決算(21年度決算)」は、過去最高となった。

 

他方で中小企業は80年代半ばの約530万社から20年には約350万社と、170万社以上も減少。全被雇用者の3738%が非正社員となり、その賃金は正社員の5860%に過ぎない。これはドイツが72%超、フランスは86%超である。これらから日本はアメリカに次ぐ所得格差となった。また正社員の労働時間は年間2000時間だが、ドイツは1360時間。さらに社会および経済に逆効果の「超金融緩和・円安インフレ」と1000兆円超の累積財政赤字である。

 

生活困窮者急増のなかで新しい資本主義?

しかも日銀の国債保有額は6月末には5172399億円で、発行残高に占める割合は50.4%に達した。日本経済の先行き不安と、日銀の大量国債保有に対する不安から、国債が売られ「国債価格下落・金利上昇」となる。日銀はこれを防止するために、10年物国債を金利0.25%で無制限に国債を購入する「国債指し値オペ」を導入した。そこで6月の日銀購入額は162038億円と、未曽有の大量買いとなり、発行額の半分以上を所有する羽目となっている。

 

現政権の「新しい資本主義」は、科学技術立国、スタートアップ支援、デジタル田園都市国家、経済安全保障を掲げるが、いずれも以上の根本要因と結果を見ぬ「お題目」にすぎない。例えば「預貯金を含む家計の金融資産」合計は今や2000兆円を超えたのに、これがゼロに等しい家庭が31%超で、個人では50%近い人が金融資産ゼロだ。著しい所得格差となっている。

(表3)相対的貧困率(%)

1991

2000

2009

2012

2015

2018

全体の貧困率

子供の相対的貧困率

13.5

12.8

15.3

14.4

16.0

15.7

16.1

16.3

15.7

13.9

15.7

14.0

 

したがってこの表のとおり、厳しい「相対的貧困率」となった。ちなみに可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない状態を「相対的貧困」とし、相対的貧困者の全人口に占める割合が「相対的貧困率」である。2015年時点では可処分所得の中央値が245万円で、この半分の122万円未満の可処分所得者が相対的貧困層。また相対的貧困家庭の17歳以下の子供数が、17歳以下の子供数全体に占める割合が「子どもの相対的貧困率」である。この貧困率が1416%ゆえ、小中学生の6~7人に1人が、学校給食以外に、まともな食事がとれていない。

 

こうした厳しい状況なのに、岸田政権は「資産所得倍増」を呼びかけ、家計の資産を貯蓄から投資に振り向けようと宣伝する。一般国民には無縁の話だ。ちなみに株式投資をしている国民は1000万人を切る程度にすぎない。。