日米のスタグフレーションと労働者の「鬱」

長時間労働と鬱増加のアメリカ

 アメリカの国内総生産GDP指数(2010年=100)は、19年の150から、21年には153へと伸びた。しかし22年の上半期は151に縮小し、景気は停滞している。13月の実質GDP成長率は前期比年率マイナス1.6%、46月もマイナス0.6%であった。79月は「輸入減」により「貿易赤字の縮小」でプラス2.6%となったが、景気下向きゆえの輸入減少であり、これは実質的にはマイナス成長でありる。

 

 それにも拘らず消費者物価は2213月期が前年同期比8.0%、46月期が同8.6%、788.4%と約40年ぶりの物価高となった。したがってFRB(連邦準備制度理事会)は、この高インフレを抑制するために6月、7月、9月、11月も0.75%の金利引き上げを4回連続で行った。アメリカはそれまでもインフレ抑制のために0.25%ずつ金利を引き上げてきたが、インフレ行進が止まらないので、0.75%と通常の3倍の金利引き上げをした。

 

 それゆえ当然に景気回復も危ぶまれる。ちなみに失業率も7月と9月が3.5%、8月は3.7%。このような景気回復の遅延予測から株価も激変である。ダウ平均は8月末に前日より1000ドルの暴落し、9月末には3万ドルを割り込んだ。さらに10月初めには1500ドル以上も下落し、その後1000ドル上昇へ。こうしたアメリカの「スタグフレーション(不況下のインフレ)」の直接的な要因は、コロナ禍とウクライナ問題による世界的な「原材料高騰」と「供給網の寸断」である。

 

 しかし長期的にはアメリカ経済の「労働条件」による社会問題にも起因する。アメリカの年間平均労働時間は、2020年時に1767時間(経済協力開発機構OECDデータ)で、2004年以降では先進諸国でトップの長時間となっている。加えて「福利厚生制度」を導入していない企業も多く、ここでは例えば病気で会社を休めば無給となる。

 

 他方でコロナによる死亡や体調不良で、50万人ほども労働人口が減少し、それが物価上昇と相まって「賃上げ」や「労働者のストライキ」に繫がっている。加えて移民の減少などもあり、労働力不足が350万人といわれる。したがって「インフレと賃上げのスパイラル」的な傾向も生じてきた。また「中・低所得者」が体調不良でも無理して働き、コロナなどの感染拡大を招く。

 

 こうした状況からOECD報告によると、アメリカでは「鬱状態である人の割合」がコロナ前の6.6%から、コロナの20年には23.5%に増加した。したがってメリーランド州では、このような状況に鑑み、4月に企業に「有給の病気休暇付与」を義務付ける法律を成立させ、また10州余りが同様な法律を成立させたという。

 

 日本の「うつ病」の増加と労働組合の低組織率

 日本の実質GDP上昇は、10年~21年の12年間で5%だけで先進諸国の最低。しかし世界情勢と円安で8月の「消費者物価」が前年同月比2.8%と30年ぶりの上昇。ちなみにエネルギー関連は16.9%増(電気代21.5%、都市ガス26.4%)。さらに9月は3.0%、103.7%と31年ぶりの3%台上昇で、「スタグフレーション」に突入している。他方でOECDの「メンタルヘルスに関する国際調査」によると、日本でも「うつ病やうつ状態の人の割合」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2倍以上に増加した。

 

 新型コロナが流行する前は7.9%(13年調査)だったが、20年には17.3%と2.2倍になった。ちなみにイギリスも9.7%(同)から19.2%と倍増だ。いずれも若い世代や失業者、経済的に不安定な人の間で深刻化しているという。もっとも日本ではコロナ禍のはるか以前から、最も売れる薬は「抗うつ剤」であった。

 

 このような日本の労働・経済条件の悪化はなぜか。「年間労働時間」が04年以前は、先進諸国の中で日本が最長であった。しかしその後「非正規雇用」やパートタイマーが増えたゆえ、日本の20年の平均労働時間は1598時間(OECD)となった。だが「正規雇用者」の労働時間は、それゆえ逆に伸びて2000時間以上となっている。これは大きな問題であるが、労働組合もこれに対処できないか?

 

 日本の労働組合の組織率は、1949年の55.8%をピークに下がり続け、21年は16.9%である。これは派遣労働やパートなどの「非正規労働者」が4割ちかくに増えたことが影響している。また組織率が高い製造業において、工場の海外移転などの国内空洞化や、採用抑制の影響もある。他方で産業全体に占めるサービス業の割合が増えているが、サービス業は小さな事業所が多く、組合を組織し難い。

 

 これらから従業員数99人以下の企業の組合組織率は0.8%に過ぎない、これに対して従業員1000人以上の企業は39.2%である。したがって中小企業や非正規労働者の労働条件は劣悪になりがちだ。他方で先述のとおり正社員の労働時間は延長され、2000時間にも及ぶゆえ、正社員の労働条件も厳しくなっている。

 

 

 経団連加盟企業の「正社員の年間労働時間」は、経団連調査によると17年が2040時間、182031時間、192000時間(非製造業は2014時間)。それゆえ「中小企業の正社員」の労働時間は、もっと長く問題だと思われる。ちなみに20年の平均労働時間はイギリス1367時間、ドイツ1332時間、日本は1598時間と長いが、それでも日本の平均時間は、「非正規労働者」の多くが短時間労働ゆえに低くなっている。非正規労働者は、全雇用の38%を占める。