中国・EU・米国・日本の景況 ----日本は異次元金融の弊害不況----

脱出が難しい中国の不況

中国では不動産の供給過剰による「中国恒大集団」をはじめ不動産大手各社が、経営危機に陥り、「不動産不況」が続いている。その大きな原因の一つが、地方都市における過剰な不動産開発であり、30億人分の「空き家」だとも言われる。

 

この住宅建設の背景には、地方政府が過剰な開発計画に走ったことがある。中国では土地は基本的に国有であるが、地方政府はその使用権を業者に売ることに依り、収入を獲得できる。この収入を狙って、地方政府は過剰な不動産開発に走った。

 

したがって不動産不況で「地方財政」も厳しくなっている。他方でこの不動産不況の背景には「人口減少」もある。住宅取得層の中心の30歳前後の人口は、すでにピークを越えた。ちなみに中国の人口は23年末で14967万人、前年末から208万人減である。

 

出生数も7年連続の減少で、直近のピークであった16年の半減となった。「合計特殊出生率」は22年で1.09と日本の23年の1.20を下回る。女性の社会進出に伴って、結婚する人が減少し、また子育てに金がかかることも減少要因だという。

 

 このような諸事情から中国の住宅建設は、コロナ禍前の水準から60%以上減少しているが、今後10年間の新築住宅の需要は3555%減るという予測。さらにIMFの予測では、半減ということだ。一般に中国の「民営企業」は、1978年から始まった鄧小平の「改革開放策」によって大いに発展したが、習近平政権下では厳しくなっている。

 

 とくに不動産不況に発する「景気低迷」が続く。消費者物価も23年第4四半期から24年にかけて前年比マイナスが続き、1624歳の失業率も、18年以降最高の21.3%となり、23年でも17.6%、そのうち仕事を探している学生を除いても14.9%であった。これらから消費マインドも冷え込み、失業率も改善してこない。

 

したがって19年までは6%以上であった「実質GDP成長率」は、2023年の平均成長率が4.7%と低下している(202.2%、223.0%、235.2%、後述の表1)。このような経済不況に対して中国当局は、不動産価格下落の食い止め策として「融資拡大策」「利下げ・金融緩和策」を導入し、また「超長期国債」や「地方債」の発行による財政資金を投入する。しかしこの政策には矛盾も含まれ、効果は疑問視される。

 

 さて中国経済の24年の実質GDP成長率も5%ほどだが、この不況と混迷が世界経済に及ぼす影響も小さくはない。中国の工業生産は世界の3割をしめ、粗鋼、セメントは5割強、世界で生産される自動車の3台に1台が中国製で、欧州では中国製EV(電気自動車)が大量に入り込み、アメリカのテスラの業績も鈍ってきた。

 

 したがって中国経済の回復が、世界経済にとっても重要である。それゆえアメリカは「対中制裁関税措置」の一部を撤廃した。しかし他方で米国政府と欧州委員会がEVなどの関税を引き上げており、中国輸出の押し下げ要因となっている。またアメリカは、韓国半導体大手「SKハイニックス」に対する補助金と引き換えに、SKが「中国半導体メーカー」に「製造装置や技術」を提供することを禁じた。

 

 それでも中国企業は、EVを中心とした自動車産業、電子部品、業務用機械製造業などは順調である。しかし住宅不況に関連して不動産業、建設業、卸売業などは低迷し、消費が伸びない。これらから欧州、アメリカ、日本において、投資先としての中国の優先順位が低下がってきた。総じて中国企業を取り巻く世界環境と、国内の政治的社会状況が変化して、中国の実質成長目標5%は難しく、1~9月は4.9%(1~3月5.3%、4~6月4.7%、7~9月4.6%)であった。

 

 EU諸国の景気低迷とポピュリズムの伸長

フランスの政権(与党連合)は基本的に「EU支持」の観点から、EUのグローバル政策を支持してきたが、それにより地方の工業や農業が疲弊する傾向もある。そこで彼らは左派に靡きがちである。これらから「フランス国民会議」の総選挙で、「左派政党連合」が最大勢力となった。ただし左派に靡いた地方の困窮住民には、フランス右派とも結ぶ人々もいる。右派は「福祉と排外主義」を主張するからだ。

 

ドイツは「ナチ」の歴史から、右翼主義に対する警戒感が強いにも拘らず、右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)が、幾つかの州議会で第一党になった。それは2013年の結党以来のことだが、チューリンゲン州、ザクセン州など旧東ドイツ地域の州においてである。この背景には旧東ドイツ州の人々の不満も見える。

 

旧東ドイツ出身の人口は、ドイツ全体の20%ほどであるのに、そのエリートはエリート層全体の12%に過ぎない。それゆえ東ドイツ出身の人々は「2級市民」のごとく扱われてきた意識との強いと言う。

 

他方でEUの「グリーンディール」は「産業と環境の両立」を遂行しているが、これにロシア・ウクライナ問題が重なった。そこでドイツは「脱ロシア天然ガス依存」を進めた。その結果エネルギーコストが跳ね上がり、企業の国内設備投資が抑制されている。加えてこの環境規制問題がらみで、ドイツ連立政権が崩壊した。

 

こうしてドイツの実質GDP成長率は、23年のマイナス0.3%に続き、24年もマイナスの可能性だ。東西ドイツ統一後では0203年が2年連続のマイナス成長であったが、今回はそれ以来の2回目の2年連続マイナス成長となる。人手不足から人件費も増加し、また主要貿易相手国の中国の景気低迷で、輸出も前年比実績を下回っている。この点からも設備投資も伸びない。

 

他方で「米中対立」から、米中ともに「外国からの投資誘致策」を導入してきた。そこでドイツなどの国内産業の厳しい企業は、ここに活路を見出す。とりわけ「グリーンテック企業」が米中両国に進出しているが、この背景には、「EUの押し付け規制・官僚制」に対する反発の「ポピュリスト」の動きもある。

 

そこでEUは加盟国の「再エネ企業に対する補助原則禁止」のルールを緩和し、基金を使って技術開発を支援する方針とした。またイギリスは公営企業(GBE)が、再エネを普及させ、「脱炭素化」を図る重要な役割を担うこととなった。

 

(表1)実質GDP成長率(%) 201619年は平均値 2024年は1~9月平均成長率、()内1~6

 

201619

2020

2021

2022

2023

2024

アメリカ

中国

ドイツ

フランス

2.5

5.7

1.8

1.8

2.2

2.2

4.2

7.8

6.1

8.4

3.1

6.8

0.0

3.0

1.9

2.6

2.5

5.2

 △0.3

1.1

2.8

4.9

(△0.2

( 0.3

 

しかし資本の海外進出に伴う国内経済の低迷も関連してフランス、ドイツ、オランダでは、右派勢力やポピュリストの議席が伸びている。これまで右派の主張は「自由市場」や「小さい政府」あるいは「排外主義」であり、左派の主張は「再配分拡大」などと別れていた。だが以上から分かるように、現在のヨーロッパの両派の支持者は、そのように単純に分けられない。

 

さてこれまで触れたとおり、EU経済の牽引国ドイツの景気が低迷している。23年の実質成長率はマイナス0.3%、24年もマイナス0.2%の予測である。エネルギー価格の高騰、働き手不足・人件費増加、設備投資の国外流出、主要貿易相手国の中国の景気低迷による輸出の落ち込みだ。2年連続のマイナス成長となれば、先述のとおり02年以来で、東西ドイツ統一後で2度目である。

 これらからEU全体の景気も減速気味で、消費者物価上昇率は2210月の10.6%増から、本年9月には1.7%まで低下した。したがって欧州中央銀行(ECB)は、6月に預金金利を4年9か月ぶりに下げ、9月にも2回目の利下げで3.25%とした。

 

アメリカの景気回復と日本の「円安苦境」

中国やEUの景気低迷が続く中で、アメリカ経済は、かなり順調に回復している。実質GDP成長率は22年の0%であったが、23年が2.5%、24年1~3月1.6%、4~6月3.0%と上向きだ。また9月の非農業部門の就業者数が、前月比254000人増で6か月ぶりの伸び、失業率も23年が3.6%、本年1~3月3.8%、4~6月4.0%と、2021年の平均6.8%からかなりの回復である。

 

(表2)アメリカの経済指標 前年比実質伸び率(%)および実数 *24年の伸び率は1~6月前期比年率

20162019

2020

2021

2022

2023

2024

個人消費

民間住宅

失業率

雇用者数

輸出伸び率

2.5

1229

4.2

147

2.0

2.5

1380

8.1

142

13.1

8.8

1601

5.4

146

22.9

3.0

1553

3.6

152

17.6

2.5

1420

3.6

156

2.3

2.5

1357

3.9

158

0.5

*雇用者数は非農業数(単位:百万人) *民間住宅は着工数(単位:千戸) 

 

 他方で消費者物価は、22年には前年比9.1%上昇と40年ぶりの高水準となったが、24年には6カ月連続で低下し、9月は前年同月比2.4%と鈍化している。このような景気状況と、トランプの「関税政策・物価上昇」の見通しから、米連邦準備制度理事会(FRB)は「利下げ」に慎重となろう。したがってアメリカFRBが利下げに慎重となり、先延ばし或いは小幅な利下げならば、日本の「円安からの脱出」は難しい。

 

日本は異常な低金利だが、日本の景気不安から日銀は金利を引き上げにくい。したがって日米の金利差から「円安」が続く。ところで国民全体にとって「公平な金利」は、経済成長率に等しい利率だといえよう。これより高ければ、所得格差が拡大する。富裕者は預金や投資によって高金利の恩恵を受けるが、低所得者とりわけ借金依存者は、高金利による圧迫を余儀なくされる。

 

(表3)貿易サービス収支と第1次所得収支 単位:億円    *財務省資料より作成

年度

2018

2019

2020

2021

2022

2023

貿易サービス収支

1次所得収支

6514

217704

13548

215078

2571

194709

64202

29083

232005

356276

97265

348649

 

他方で日本のような低金利では「為替下落・円安」が生じ、原材料や食料などの「輸入物価」が高騰し、中小企業や国民の生活が苦しい。また日本のカネが低金利ゆえに、海外投資や海外預金へと流出している。それゆえ海外預金の利子・海外投資の配当・海外子会社からの受け取りの増大で「第1次所得収支」が大幅な黒字となり、22年が35.6兆円、2334.8兆円(表3)。

 

逆に「貿易収支」は、22年が23.2兆円、23年も9.7兆円のそれぞれ赤字と、赤字続きである。第1次所得収支の黒字は、企業および高所得者の海外における投資や預金などに向けられがちで、国民経済に対する貢献は大きくない。このように13年から導入された日銀の「異次元金融緩和策」の多様な弊害が、なおも続いている。