減反策でコメ農家およびコメ生産の減少
コメ価格の暴騰が、国民生活を脅かしている。その背景は「コメ不足」したがって「コメ農政」の問
題である。ちなみに農業は古来より「文明の展開」に密接に関係した。農林業の展開が「古代メソポタ
ミア文明」「フェニキア文明」「マヤ文明」などを崩壊さた最大要因である。穀物増産や木材使用のた
めに森林林を伐採しすぎて、農地の流出と劣化から食糧難に陥った。
日本は世界平均の2倍の降雨量だが、これが森林に蓄えられ、森林から河川を通じて水田へ、水田から地下水へ、地下水から河川へ、河川から海へという水資源サイクルが、豊かな国土を形成している。そして水田はその要であり、ダムの3倍の貯水能力を発揮してきた。温暖化により異常な豪雨や台風が頻発するゆえ、この機能はさらに重要となる。
しかし1971年から導入された「コメの生産調整・減反政策」により、コメ生産量は下がり続け、コメ農家は最近20年間だけで6割も減少し、70万戸ほどとなっている。したがって2018年に「減反政策」は廃止された。しかし、それでも「コメ消費量の減少」から「国産米の在庫」が増加しているので、実質的な「減反策」を続けている。
政府は「肉食の増加」それゆえ「牧畜」の重要さに鑑みて、「飼料用米作に転換するための補助金策」を導入しているが、これは実質上の「減反政策」だ。他方で1995年の「食糧法」と2004年の「改正食糧法」によって、「コメの流通」を民間に委ねた。けれども「代表的な民間農業機関のJA(農業協同組合)」の24年度の「集荷量」は、全体の4分の1ほどに過ぎない。
他方で民間のコメ輸入は、24年度が3000トンと過去最高となった。さらに本年4月の輸入量は24年度全体の約2.3倍の6838トン。1993年に「コメの輸入関税化の猶予」と引き換えに「ミニマムアクセス(最低輸入義務)」が導入され、これを超える部分については280%の高関税、さらには1キロ341円の関税を課して「コメの輸入自由化」が導入されている。
このような経過からコメ農家は6割も減少し、さらに国民の「肉食・パン食増加・コメ離れ」も加わって、日本の「カロリーベースの食料自給率」は1960年79%、75~85年が53%、2017年38%、18年度37%と下がり続けて、先進諸国で最低の危険ラインに落ち込んでいる。
食料自給率(カロリーベース%)2013年および2021年(カッコ内)*農水省「食糧自給表」より作成 |
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豪州 223 |
カナダ 264 (204) |
フラン 127 (121) |
ドイツ 95 (83) |
イタリア 60 |
オランダ 69 |
韓国 39 |
スペイン 93 |
スウェーデン 69 |
スイス 51 |
イギリス 63 (58) |
アメリカ130 (104) |
日本 37* (38) |
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日本の*は2018年の割合
熟慮を要する農業構造転換政策
これらの事情から政府も農業政策の転換を検討し始めた。2025~29年を「農業構造転換集中期間」と銘打って、「大区画化整備8000億円」「共同利用施設再編集約化9000億円」「スマート農業技術・新品種開発7000億円」など2兆5000億円の予算をつけて、構造転換を表明している。
ところで「国連環境計画(UNEP)」の90年の纏めによると、世界の農地は38%が劣化したが、それは「水食(水による浸食)」「風食(風による浸食)」「化学的(化学肥料散布による)劣化」だという。例えばアメリカ農業は大型スプリンクラーによる散水やヘリコプターによる種蒔きのために、耕地の木を伐採したゆえ風雨に弱く、大量の表土が削られている。
またこの散水によって同時に大量の塩分が散布され、地味も劣化している。これと「酸性雨」対策とのために、大量の化学肥料を散布し、さらに地味を劣化させてきた。それらはアメリカ農業に限ったことではなく、カナダ、オーストラリア、ドイツをはじめEU諸国でも同じである。
先の日本政府の「農業構造転換方策」も、これらの諸点を十分に考慮すべきである。特に「水田や棚田・段々畑の国土保全機能」に鑑みて、「大農法」および「工業的経営」の導入には十分な配慮が必要である。水田や棚田の下には巨大な「水槽」があると同じゆえ、その国土保全機能は、約8~10兆円だという(日本学術会議試算)。
この機能が喪失したら、国土保全のために数年ごとに数兆円近い工事が必要だ。他方で「コメ輸入」に関しても、トランプ米大統領の要求を拒否して農業を守ることが不可欠だ。農産物と工業品とを同一視して、農産物の無防備な輸入自由化を推進することは誤りであり、実際にどこの国も「農産物の自由化」を厳しく制限してきた。
イギリスでは1846年の「穀物法」の廃止・輸入自由化により農業が衰退し、食糧自給率を元に戻すのに1世紀もかかった。2050年には世界人口は97億人となり、必要な食糧は現在より7割増えるが、農地は5%しか増えないという(国連食糧農業機関FAO)。
しかもこの土壌の劣化も深刻ゆえ、単位面積当たりの生産性を上げることが難しい。すでに2021年時点で世界の8億2800万人が食糧不足に苦しんでいる。持続可能な開発(SDGS)の「30年までに飢餓をゼロ(ゼロハンガー)達成」はきわめて難しい。
日本農業の展望------新規参入者の持続と国土保全の農業
ところで先述のとおり「コメの輸入」が急増しているが、他方で「農林水産物・食品の輸出」も次第に拡大し、24年には1.5兆円(18年9068億円)となった。12年連続で過去最高を更新した。このうち「農産物輸出」は、前年比8.4%増の9818億円である。対中国輸出は減少してきたが、欧州やアメリカへの輸出が伸びている。
海外の日本食ブームやインバウンドの増加さらには日本庭園人気などから、コメや日本酒、植木、果実、菓子類、酪農品の輸出まで伸びている。他方でインバウンドの「コト消費」も増加している。地方における特別な体験や人との触れ合いを重視するところの、外国人旅行者の「コト消費」だ。
24年のインバウンド人口は、1位が東京377.8万人、2位の大阪332.5万人、4位の京都254.1万人だが、全インバウンド人数は3687万人であり、したがって地方を訪れた外国人は2722万人で、第3位の千葉だけでも272.1万人であった(都道府県別外国人訪問客数、日本政府観光局JNTO)。
ちなみにEUでは長期休暇を利用する「コト消費」が、数兆円の効果を産んでいる。日本においても「インバウンド」や「コト消費」も加わってきた。こうした点からも毎年、新たに農業に参入する「新規参入者」が持続している。23年の「新規農業就業者数」は4万3460人で、このうち49歳以下が1万5890人であった。
ちなみに49歳以下の新規農業者は、2015年2.3万人、18年1.9万人、21年1.8万人であり、23年までの9年間で17.3万人である。各年の参入者数がやや減少気味であるが、毎年これだけの新規参入者がいるゆえ、新たな農業の展望が開ける。こうした状況から「大農法」よりは、従来どおりの地道な「中小農業」を増やしていくことが重要である。
それは、先の「水田や棚田さらには段々畑の国土保全機能」からも重要である。しかしこのような農業では、十分な利益を上げることが難しい。それゆえ農業に対する所得補償が不可欠だ。ちなみにアメリカをはじめ多くの諸国が、「農業に対する所得補償」などの農業政策を導入している。ちなみにEU諸国も同様であるが、さらにドイツなどはEU加盟国として、フランスの農業支援のためにも拠出している。
(以上は「ロゴス通信21号の小生の掲載文より転載)